大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>27.ソフトバンクモバイルのもうひとつの「予想外」

2006/12/04 16:51

週刊BCN 2006年12月04日vol.1165掲載

 ソフトバンクモバイルが、“隠れ予想外”ともいえる動きをみせている。

 それは、新スーパーボーナス制度による0円での端末販売だ。だが、0円そのものが予想外というわけではない。ここで提示されている割賦販売の手法が、これまでの携帯電話のビジネスモデルを変える可能性があるからだ。

■携帯電話業界の特殊事情

 ソフトバンクの端末販売で注目すべきは、販売店に支払われるインセンティブ制度をなくした形で運用されるという点である。

 ここにきて、携帯電話業界のなかでは、インセンティブを主体としたビジネスモデルの見直しと、SIMロック解除(どこの携帯電話キャリアのSIMカードでも利用できる携帯電話)に向けた動きが大きな関心事となっている。

 これは、総務省が先頃発表した「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方について 新競争促進プログラム2010」のなかで示された「検討すべき政策課題」として、携帯電話端末販売におけるインセンティブ制度に関して検証が必要と指摘されたことに起因する。

 家電量販店や、携帯電話専門店では、0円や1円といった価格で携帯電話端末が販売されているが、これは、携帯電話キャリアが販売店に対してインセンティブを支払うことによって、実売価格が抑えられるという構図によるものだ。本来ならば、5万円はするであろう携帯電話が、驚くべき低価格で販売されているのは、インセンティブ制度がある日本の特殊事情だといっていい。

 auを例にとれば、今年度のインセンティブコストは1台あたり3万7000円とされており、NTTドコモでは、端末機器原価と代理店手数料、ポイントサービス経費を加えた収益連動経費で年間1兆8260億円を計上。インセンティブが経営に大きくのしかかっていることを示している。

■インセンティブは必要悪?

 携帯電話の新規契約数や機種変更が増加すると、減益に直結するという構図は、携帯電話業界ならではのイビツなものだといわざるを得ない。

 NTTドコモの中村維夫社長は、「インセンティブ制度は、市場が拡大しているなかでのビジネスモデル。すべてがいまの時代に適しているわけではない」と指摘する。だが、その一方で、「簡単にこの制度が変えられるわけではない」とも語る。

 一方、KDDIの小野寺正社長も、「インセンティブモデルがいいとは思っていない。だが、インセンティブによって、携帯電話に次々に搭載される新たな機能やサービスがすぐに利用できるようになる。ワンセグも、おサイフケータイも、最新機能を搭載した携帯電話が安価に手に入るからこそ普及した。インセンティブモデルがなくなれば、日本経済の発展につながらないという問題すら出てくるだろう」と指摘する。

 総務省では、インセンティブモデルと関連が深いSIMロック解除に関する検討と連動させ、来年夏にもインセンティブ制度の方向性について、結論を出す予定だ。 携帯電話業界にとっては、ナンバーポータビリティ制度よりも大きな波が、これから先に押し寄せることになる。
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