大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>56.パソコンにも広がる「ファクターX」の考え方

2007/07/09 16:51

週刊BCN 2007年07月09日vol.1194掲載

 環境保護に対する世論が高まっている。テレビCMでも環境保護を訴える内容が増加。企業の社会的責任として、環境対策は避けて通れないものとなっている。

■メーカーは標準化に動く

 そうしたなか、電機業界において、「ファクターX」への取り組みが活発になってきた。

 ファクターとは、環境への影響力を示す指標のひとつ。製品の価値や基本性能の向上などによる生活の質をどの程度押し上げたかといった数値を分子に置き、それに対して、温暖化対策、製品ライフサイクルの向上や、循環しない資源の削減などの効果を推し量った数値を分母とした方程式から算出する。温暖化対策などを「温暖化防止ファクター」、資源の有効利用には「資源ファクター」といった指標が用意され、例えば生活の質を2倍に、環境への影響を60%削減するとファクター5になる。数値が大きいほど環境負荷が少ないことを示す。環境への影響だけでなく、製品の価値や性能向上の指数を盛り込むところに、メーカーならではの視点があるともいえよう。

 ただし、従来は各社ごとに指数を算出していたため、数値基準に差があった。そこで昨年11月、東芝、日立製作所、富士通、松下電器産業、三菱電機の5社が、エアコン、冷蔵庫、ランプ(電球)、照明器具の4製品に関して、ファクターXの算出方法を標準化。基準とする製品を、2000年度に販売された製品にすることなどを取り決め、これを「共通ファクター」に位置づけた。今年5月には、三洋電機、シャープ、NECの3社も参加し、これからパソコンなどにも対象製品が広がることになる。

■数値に潜む落し穴

 だが、この製品の価値や性能向上を示す指数を活用することで、別の問題も起きている。性能の向上が著しい製品は、数値が高くなるからだ。指数を算出する上では分子部分が大きくなり、結果として、ファクターとして導き出される数値が大きくなるのだ。

 例えば、松下電器が発行している2006年度版環境データブックによると、冷蔵庫の温暖化防止ファクター値は2.7、ドラム式洗濯乾燥機が2.8であるのに対して、FAXは19.7となっている。ここ数年で、各種複合機能の搭載、音声ガイド、骨伝導子機の搭載といった進化によって、基本機能の数値が増加しているのが原因だ。環境対策ではなく、性能向上だけでもファクターは増加することになる。当然、めまぐるしく進化するパソコンも、ファクター値が高い製品ジャンルに位置づけられるのは明らかだ。このように、製品ジャンルを越えた比較が難しく、一概に、すべての製品でファクター5を目指せばいいという考え方は当てはまらない。

 また、基準となるのが自社製品であるため、あくまでも自社比較の範囲にとどまっている点も気をつけなくてはならない。同じジャンルのなかでも、メーカーを越えたファクター値の比較はできないというわけだ。

 ファクターXの考え方は、ひとつの指標にはなるが、これが製品の選択基準のひとつとして、広く活用されるようになるには、まだ解決しなくてはならないことが多いといえる。
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