大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>61.ケンウッドとビクター提携の見えざる壁

2007/08/13 18:44

週刊BCN 2007年08月13日vol.1199掲載

 ケンウッドと日本ビクターの資本提携は、関係各社にとっても大きな「賭け」だといっていい。

■小が大の再建を指揮

 再建スキームでは、日本ビクターが第三者割当による新株式発行により、200億円を調達。さらに、5年前の経営再建でケンウッドが支援を仰いだ投資運用会社のスパークス・グループが150億円を出資。今年6月に社長兼CEOを退き会長に就任したケンウッドの河原春郎氏が、日本ビクター再建の陣頭指揮をとり、まずは黒字化を目指す。

 1700億円の売り上げ規模のケンウッドが、7000億円規模を誇る日本ビクターを、いかに再建できるかに注目が集まる。

 当面のゴールとなる経営統合は、2008年度に予定されているが、この前提となるのは、07年度の黒字化だ。

 河原会長は、「第一ステップにおいて、市販カーオーディオ事業で世界最大規模となるシナジー効果を生かすとともに、ジョイントベンチャーによる共同開発、共同資材調達、生産拠点の相互製造委託、知的財産のクロスライセンスなどを行い、同時に日本ビクターの黒字化を目指す。第2ステップとして、経営の安定を見届けてから経営統合に踏み出すことになる」と語り、経営統合は、日本ビクターの経営の安定、すなわち黒字化が条件であることを示す。

 松下電器産業の大坪文雄社長も、「このスキームの最大の狙いは、日本ビクターが企業価値を高めることができるかどうかにある」と前置きし、「日本ビクターが再生を図り、それが確認できた段階に株式売却という選択肢もある」と、やはり、日本ビクターの黒字化がみえた段階で、筆頭株主から降りることを匂わせる。

 営業利益では2年連続、最終利益では3年連続で赤字となっている日本ビクターの黒字化が、今回のスキームのベースにあることを忘れてはならない。

■松下はビクターと距離をとる

 だが、松下電器は筆頭株主としてとどまるものの、日本ビクターに対しては、松下グループから外れての自主再建が最適だと突き放す。

 大坪社長は、「私自身、AV事業を担当していた立場から、自主自立を推進する日本ビクターとは、十分なシナジー効果が期待できず、体質的に相容れないものがあると感じていた。松下電器グループからはずれて自主再建するのが最適と考えていた。その考え方のうえで最善のやり方を種々検討してきた。ケンウッドとの資本提携は、ビクターの企業価値を最大化することができるはず」と語る。

 今後の課題は、松下電器がシナジー効果を発揮できないとみなした日本ビクターに対して、ケンウッドがいかにシナジー効果を見出すことができるかだ。河原会長は、「業容が異なり、付加価値が得やすい」というが、技術集団として高い自負を持つ日本ビクターとの融合には、時間がかかるというが業界筋の見方だ。

 また、ケンウッド以上の規模で構造改革に挑んだ松下電器のノウハウが生かさせなかったビクター再生に、ケンウッドの再生ノウハウがどこまで通用するのかも未知数だ。

 スキーム通りに進むには、壁が多すぎるとはいえまいか。
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