大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>70.松下が「環境」を経営指標に採用した理由

2007/10/22 18:44

週刊BCN 2007年10月22日vol.1208掲載

 松下電器産業が「eco ideas」をキーワードとしたグループの環境経営戦略を打ち出した。

 同社はこれまで「ユビキタスネットワーク社会の実現」と「地球環境との共存」を二大事業ビジョンに掲げ環境経営に取り組んできた。2007年度からの3か年中期経営計画「GP3計画」においても、「収益を伴った着実な成長」戦略に加え、新たに「すべての事業活動で環境負荷を削減する」ことを重要テーマに加えた。さらに、08年度からは基幹経営指標に、二酸化炭素(CO2)排出量の数値を加えることも明らかにした。

■あえて高いハードルで

 本来、成長戦略である中期経営計画に、環境戦略を取り入れたのは異例ともいえる。

 大坪文雄社長は、「当社には、企業は社会の公器という考え方があり、その点からも環境への取り組みは避けては通れない。軽薄短小のコンセプトやアイデアが、省エネ、省資源につながると考えており、生産拡大とエネルギー削減は、矛盾なく実現できるはずである。成長戦略と環境対策は、まさに車の両輪」と言い切る。

 もうひとつ、異例ともいえるのは、CO2排出量を売上高や生産数で割った「原単位」ではなく、CO2排出量そのものを示す「総量」で削減すると宣言したことである。

 GP3の成長戦略においては、当然、事業規模を拡大することになる。それならば、原単位のほうが明らかにハードルは低い。だが、松下電器は、事業規模を拡大しながら、CO2を削減するという挑戦に打って出たのだ。

 具体的な目標として、全世界294拠点の製造事業場から排出されるCO2総量を、06年度の398万トンから、09年度までに30万トン削減し、368万トンとする。この間、売上高は9兆1000億円から10兆円へ拡大させる計画だ。また、2010年度には、松下電器の環境基準年とする00年度の排出量である約360万トンに戻すという。

 松下電器は、03年度から06年度にかけて、事業を拡大させながらも、12万トンのCO2排出量を削減した実績があり、これをさらに加速させるというわけだ。

■世界の先をいく環境対策

 松下電器は、9月26日、中国・北京で中国環境フォーラム2007を開催した。松下グループ関係者や中国日本友好協会、中国政府や関連団体の関係者など約230人が参加。ここで「中国環境貢献企業宣言」を発信した。高い環境性能を有する製品づくりをはじめ、製造事業場における環境負荷低減、従業員の環境意識の向上とエコ活動の展開の3点から、中国現地に則した環境保全活動に取り組むものだ。

 同フォーラムに出席した中国商務部研究員多国籍企業研究センター・王志楽主任は、「欧米や中国の企業を多く研究してきたが、松下電器の環境への取り組みは世界的にみても先進的。これまで、企業や製品は、コストパフォーマンスの高さを競ってきたが、今後の競争には、それに加えて、社会的責任や環境責任が含まれるようになるだろう」と強調した。

 環境対策が製品の差別化になる時代は、すぐそこまできている。環境対策は、企業にとって、いまから取り組んでおかなくてはならない必須の課題なのだ。
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