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新製品の裏に新技術あり 世界初のデジタル化技術に迫る ソニーが開発した騒音99%カットのヘッドホン

2008/06/02 18:45

週刊BCN 2008年06月02日vol.1237掲載

 ソニーが4月21日に発売した、デジタルノイズキャンセリングヘッドホン「MDR-NC500D」。世界で初めてノイズキャンセリング機能をデジタル化し、周囲の騒音を約99%低減するという画期的な製品だ。デジタル化で何が変わるのか? その仕組みは? 誕生までの裏話を開発チームの責任者に尋ねた。

■99%のノイズキャンセルとは?

 ノイズキャンセリングヘッドホンとは、周囲の騒音(ノイズ)だけを電気的に打ち消し、音楽など目的の音だけを静かな状態で楽しめるヘッドホンのこと。主に航空機内の騒音対策として開発され、最近では一般にも普及し始めている。従来の製品は、アナログ処理でノイズを消していたが、ソニーでは、世界で初めてノイズキャンセル機能のデジタル化に成功、大幅に機能を向上させた。

 「MDR-NC500D」の開発に携わった角田直隆・オーディオ事業本部第3ビジネス部門1部主任技師によると、99%のノイズキャンセリングというのは「全く音が聞こえなくなるということではないんです。あくまでノイズのみを99%カットして、音源から出ているナチュラルな音をそのまま聞こうということ」だそうだ。

■デジタル化による3つの恩恵

 角田氏は「今回、キャンセリング機能のデジタル化により、3つのメリットを得ることができた」と語る。

 メリットの第1は、「強いノイズキャンセル効果」。角田氏は「一般に、ノイズの周波数が低いときは、ほぼリアルタイムでキャンセルできるけれども、高い周波数になると処理が追いつかず、ハウリングを起こしてしまうんです」と説明する。そこで「ハウリングを起こす高い周波数を、ボリュームを落としてカットし、キャンセルできる低い周波数は残しておく」という処理が必要になる。ここをデジタル化することで、アナログに比べて精度が圧倒的に向上し、キャンセル効果がアップするのだという。

 2点目は「音質の向上」。「ノイズをキャンセルしただけだと、低音が持ち上がったモコモコした音にしかなりません。それをナチュラルな音に補正するイコライザーが必要。ここもデジタル化したことで、非常に緻密な補正が可能になりました。これが高音質になった理由です」(角田氏)。

 そして3点目がデジタルならではの「AIノイズキャンセリング」機能だ。「開発に先立って実施した調査で、よく使用されるシーンが、航空機内、電車やバスの中、そしてオフィスの中ということがわかりました。そこで、3シーンそれぞれに適したキャンセル特性を持たせたんです」。そのうえ、装着してから「AIノイズキャンセリングボタン」を押すと3秒間でその場のノイズを解析し、3つの特性の中から最も適したものを自動で選ぶ機能も実装した。こうしたデジタル処理による3つのメリットを駆使しながら「世界トップの技術」(角田氏)を注ぎ込んで製品は完成した。

■「世界初」を目指し開発を急いだ

 「人によって、ノイズと感じる領域がぜんぜん違っていたんです」。プロジェクトリーダーを務めたオーディオ事業本部第3ビジネス部門1部の水内崇行氏は、開発の途中で持ち上がった大きな問題点を明かした。

 「何をノイズとして感じるのかは千差万別。使う人すべてを満足させるためにどうするかという方法論が見つからず、3か月ほど悩んでいました。そこからはテスターへのインタビューを繰り返し、ノイズと思う部分を指摘してもらいました」。問題点が明確になれば、あとは技術的にどうするかを決めればいい。そうして困難を乗り越えた。

 いいものを作りたい、そんな思いで開発を続けたチームだが、水内氏は「“世界初”をアピールしたいわけですから、開発中は他社に先んじられないかずっとヒヤヒヤしていました」と振り返る。品質とスピードの両方を求められるなかでの焦りも大きかったようだ。

 角田氏は、「これからのノイズキャンセリングはデジタル方式が主流になる。そうなっても今と変わらず先頭を走っていたい」と、さらに性能向上を追求し続けたいという技術者の意気込みを語った。(山田五大)

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