大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>100.ソニーが目指す「液晶テレビ物量戦略」の衝撃

2008/06/09 18:44

週刊BCN 2008年06月09日vol.1238掲載

 ソニーがテレビ事業において、大きく舵を切った。それは、ひとことで言えば、数を追求する戦略である。

■エントリーモデルで拡販

 2007年度の液晶テレビの出荷実績は1060万台。前年度の630万台から68%増という大幅な成長である。これを08年度には1700万台と、さらに60%以上の成長率を見込む。市場全体が30%増と見込まれるなかで、これだけの分母を持つソニーが、市場全体の2倍の成長戦略を描くのは異例と言わざるを得ない。

 ソニーでは、08年度の液晶テレビの市場規模を1億台と想定しており、「そのうち、15-20%のシェアを取る」と、年間2000万台も視野に入れつつあることを匂わす。一部には、社内目標としては1700万台よりも高い数値が出ている、という話もあり、意欲的な数値は、公表数値以上に上乗せされている可能性がある。

 テレビ事業本部・吉岡浩本部長は、「市場成長期における圧倒的なビジネスボリュームを確保することにより、コスト削減を実現する」と語る。

 薄型テレビ市場はこれから成長の本番を迎える。その成長期において、一定規模以上のシェアを獲得することで、存在感を発揮。先行する韓国サムスンを射程距離に置ける規模にまで拡大することを目指す考えだ。

 拡大策の具体的な取り組みとして、ソニーでは、「標準パネルを採用したエントリーモデルを用意し、チャネルを開拓していく」(大根田伸行執行役EVP兼CFO)としている。

 ここでいう標準パネルとは、S-LCD以外から調達するパネルのことを指す。32インチ以下の中小型パネルを台湾の液晶パネルメーカーから調達し、ソニーブランドで販売するというものだ。これらを価格競争が激しい北米市場などに投入。さらに、ウォルマートなどの特定販売ルート向けのモデルを開発して、エントリークラスでの展開を図る。

 また、現在、5つあるシャーシを2シャーシに削減。これもコスト削減効果につながるという。

■黒字に転換できるか

 ソニーは、先頃発表した07年度通期連結決算において、売上高は前年比6.9%増の8兆8714億円、当期純利益は192.4%増の3694億円となり、過去最高の業績を達成。営業利益は421.9%増の3745億円と史上2番目となった。さらに、柱となるエレクトロニクス事業も、営業利益で3560億円と過去最高を記録した。

 だが、薄型テレビについては、売上高こそ1兆3500億円と前年比で11%増加したものの、営業損失は前年に比べて約500億円増え、730億円の赤字となった。品薄に対応するため、一部で空輸によるパネル輸送を行ったことも収益悪化に影響しているという。

 テレビ事業は08年度に黒字化を目指すというが、これだけの大きな赤字体質から一気に黒字転換するのは、大きなハードルであることは間違いない。

 ソニーは、黒字化に向けて物量戦略を加速することになるが、この施策が、市場にどんなインパクトを与えるのかが注目されている。とくに同社のエントリーモデル戦略の行方は、競合各社にとっては最も気になるところだろう。
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