店頭流通

業界No.1の省エネ液晶テレビ 「BRAVIA JE1」はこうして生まれた

2008/09/08 18:45

週刊BCN 2008年09月08日vol.1250掲載

リサイクル材の使用でCO2削減も

 世界的に環境保護の気運が高まり、家電メーカー各社も環境対策に力を入れている。そんななか、ソニーは業界No.1という低消費電力の液晶テレビ「BRAVIA(ブラビア) KDL-32JE1(JE1)」を7月に発売した。「省エネNo.1」をうたう「JE1」は、どんな狙いで開発されたのか。担当者を取材した。

他社に先駆け省エネNo.1を

 「KDL-32JE1」は、画素数が水平1366×垂直768で、画面サイズが32V型の液晶テレビ。これで圧倒的な省エネを実現した。例えば、年間消費電力量は86kWh/年。05年発売のBRAVIA 32V型モデルに比べ半分以下だ。消費電力は150Wから89Wにまで削減。省エネ基準達成率も232%に及んでいる。

 「省エネ基準達成率」とは省エネ法に定められた目標基準値に対する達成率を表す数値のこと。32V型の液晶テレビの場合、年間消費電力量が200kWh/年が100%に相当する。86kWh/年のJE1は業界で初めて200%を超えた液晶テレビだという。

 「ダントツの低消費電力の液晶テレビを業界で先駆けて出したかった」と語るのは、商品企画を担当したテレビ事業本部商品企画部の長原絵美さん。

 「『エコ』や『環境』という言葉は今、買物の軸になっています。特に女性はその意識が高い。白物家電では低消費電力の省エネ製品を当たり前のように選んでいます。家電の購入にあたって家族のなかで一番反映されるのは主婦などの女性の意見。だから、これからAV機器も白物家電のような省エネ性能が必ず求められてくると思った」という。

 「環境をテーマとする洞爺湖サミットが開催され、世間の関心が高まる時期に何としても間に合わせたい」(長原さん)と、7月の発売を目指し約4か月という短期間で商品化を進めた。

 JE1は、省エネに3つの新技術を導入した。1つは発光効率が高い蛍光管の採用。2つめは低電圧でも光るようにする工夫。3つめは透過率が高い光学フィルムの実装だ。これらの技術は07年秋には開発が終わっていたものだったが、「それを生かす商品企画がなかった」(井原優・テレビ事業本部品質保証部門社会環境室環境マネジャー)ため、しばらく日の目をみることはなかった。そこへ、今回のJE1の企画が持ち上がり、製品に結びついた。

部品の70%がリサイクル材

 環境対策では、資源の有効活用も重要だ。JE1では「リサイクル材を積極的に利用した省資源化」(井原マネジャー)にも取り組んでいる。新材の使用を抑えると同時に、製造時のCO2が削減できるからだ。

 リサイクル材は業者から購入するのが一般的だ。しかし、ソニーでは自社製テレビの部品や製造時の廃材を再生し、リサイクル材として使う「自社循環」を特に重視している。ソニーによると、自社循環のリサイクル材は、コストダウンはもちろん、製品生産時のCO2を40%も削減できるという。

 ソニーではリサイクルを考えたブラウン管テレビの回収が2001年から本格化。07年12月に発泡スチロールの再生と合わせた自社循環の仕組みを業界で初めて確立できたことで、08年の春に発売したBRAVIAのF1、V1、J1シリーズから一部部品で用い始めた。

 JE1では、その利用をさらに拡大。液晶テレビの光学フィルム製造で発生する廃材を再生した部品も使用した。  「自分たちの製品をリサイクルする自社循環は、各社がやりたいと思っているが、材料の分別などの問題があって、なかなかできない。ソニーでは10年以上前から環境配慮に取り組んできたからこそ実現できた。これからも積極的に推進していきたい」と、井原マネジャーは胸を張る。

「環境」を意識する女性が支持

 JE1の「省エネ」という最大の特徴をどう販売に結びつけるか? ソニーマーケティングディスプレイマーケティング部ディスプレイMK課の森山友嵩氏は「いい製品だとは思ったが、『省エネNo.1』という点をどう訴求していくかに戸惑った」と話す。

 しかし、発売してみれば電気代に敏感な主婦や環境に関心を持った20代の女性がこぞって購入した。「思っていたよりも好調な滑り出しで、環境に配慮する人が多いことが改めて分かった。液晶テレビの『環境対応』は新たな付加価値になる」と、意気込む。

 今後の展開については、「32V型よりも大きい画面サイズの開発も検討している。環境対策が進んでいるEU(欧州連合)など、世界的にもJE1シリーズを展開していきたい」と長原さんは話す。

 薄型テレビは「高画質」や「機能」を競ってきた。そのなかで「省エネ」「省資源」を前面に出したJE1の登場は「環境配慮」という、新たな競争のポイントを生み出すことになるかもしれない。(米山淳)
  • 1