ワイヤレス高速ブロードバンド「WiMAX」の商用サービス提供が今夏以降に始まる。モバイル環境が激変するため、企業が重要業務を外出先のモバイル端末で実行する機会が増えると予測される。現在利用されている他の通信規格と合わせ外出先などで高速モバイル環境が普及して「仕事の仕方」が変わる可能性を秘めるということは、SIerのシステム提案の幅も広がることを意味する。しかし、販売系SIerの多くは、現段階で様子見の状態(2月23日号の「オピニオン特集」で既報)。一方で大塚商会では「WiMAX」の商用提供に向け着々と準備を進めている。具体策に関して大塚商会の口は堅いが、同社への取材内容を基に「次世代ビジネス」の可能性を探る。

次のストックへ準備着々
本格展開は1、2年先か

 総務省が割り当てる「WiMAX」の免許を取得したUQコミュニケーションズは2月26日、東京23区、横浜市、川崎市の一部で「UQ WiMAX」の試験サービスを開始した。同社は2012年末までに首都圏、名古屋圏、京阪神圏をカバーし、人口カバー率90%を目指す「ロードマップ」を公開。企業が密集するビジネス活動領域ではここ1、2年中に「WiMAX」を利用できる環境が整う。対するウィルコムも同様の計画を描いている。

 自社でISP(インターネットサービスプロバイダ)を展開する「通信事業者」でもある大塚商会は、「WiMAX」サービス開始で「在宅と移動者向けのソリューションが初めて展開できる」(北川達史・ブロードバンドプロモーション部長)と、数年前からこれらの動きに敏感に反応し、準備段階から実用段階に移ると期待する。

 「WiMAX」先進国の隣国・韓国がそうであったように、日本ではかつて「WiFi(無線LANコントローラ)」を搭載したパソコンが登場した。これから先は「WiMAX」規格のチップを搭載したモバイル端末としてパソコンや「MID(小型インターネット端末)」が年内に出回るだろう。ただ、これら端末が企業で利用されるためには「業務負荷がなく、安心して使えるようになるまでのハードルがまだまだある」(北川部長)。これまで「新しい技術」をビジネス化してきた同社の実績から判断すると、今夏頃に「実証実験」的な取り組みを開始し、利用上の諸課題を焙り出したうえで「本格展開」に移すと本紙は見ている。

 同社では「WiMAX」を含めた高速モバイル環境が企業に普及する前提(ハードル)として四つの条件を示している。この条件を基に本紙で作成したのが下掲の図である。

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認証、セキュリティの整備急務

 まず、第1フェーズとして、利用者個人を特定する手段となる「認証基盤」の整備が求められる。いまでもSFA(営業支援ツール)などを使って外出先から業務報告をするビジネス・パーソンは少なくない。

 これが「WiMAX」ほどの高速環境になれば、外で利用できる幅が大きくなり、取引関係や社内決裁、社内のリッチ環境で行う重要業務に使われることが予想されるし、使えるようにしなければ利用価値が生まれない。この際に、個人を特定するための「認証基盤」が必須になるということだ。

 現在国内では、ITベンダーが主体となり「アイデンティティ(ID)管理」の世界標準仕様として「OpenID」や「SAML」などを企業向けに普及する動きが活発化している。ただ、通信事業者などによって対応が分かれており、標準仕様が行き渡るまでに時間を要しそうだ。

 このため大塚商会は今年に入り、ソニーの指静脈認証技術「mofiria」を使ってこの“穴”を埋めることを表明した。「mofiria」の展開は、WANや社内LAN環境に加え、ASP・SaaSなどの普及を目指した取り組みであると打ち出している。だが、これを使えば「モバイルWiMAX」環境でも認証やIT資産管理、アクセス管理なども可能となりそうだ。

データセンター増設も布石

 次に第2フェーズでは、高速モバイル環境上をセキュアにすることが課題として挙がるとみている。「認証環境が整ったあと、高速環境下で重要データがどこに存在し、これをどう保護するかが問題になる」(伊藤昇・テクニカルプロモーション部部長代理)と説明する。このセキュリティの“穴”に関しても「mofiria」によるWindowsログオン認証を入り口として、モバイル端末に対し「アンチウイルス」や盗難時の「情報漏えい防止」などのサービスを展開できる。

 2月4日には、大塚商会が東京・秋葉原に次世代ITサービス拠点となるデータセンター「たよれーるマネジメントセンター」を開設したことも注目に値する。このセンターは「セキュリティ体制基盤」を利用して、「モバイルWiMAX」を含めたリモート保守を可能にする。

 表向きには、現行のシステム環境に対するサービス提供としているが、「次世代」と称するだけに、「WiMAX」環境などへの布石ともとれる。

 伊藤・部長代理は「この二段階の環境が整備され、企業のITインフラが仮想環境などで最適化されて、初めて高速モバイル環境を含め企業へシステムを届けることができるようになる」と観測する。自社の環境整備と通信事業者を含めたIT業界全体の関連整備が必要になるため、実際に収益に結びつくには1、2年を要すると判断しているようだ。ただ同社は、「MVNE(仮想移動体通信を利用してサービスを提供する会社)」になることを選択肢の一つとして掲げ、商用開始と同時にこの回線を利用して中堅・中小企業向けに回線、端末、各種ソフトウェアなどを集約したパッケージの販売を開始する計画だ。

 「WiMAX」の登場でビジネス・パースンの仕事場は、在宅やブランチ・オフィス、外出先へと移り変わる可能性がある。「WiMAX」で利用する「2.5GHz帯」の電波は、携帯電話に比べ周波数帯が高く直進性が強いため、室内に電波が届きにくい。在宅ワーカーに「WiMAX」を適用しようとする企業には気がかりな点だ。

 ただ、室内では、外出先で利用する「WiMAX」アダプタを窓際に置いた「WiMAX」対応のルーターに挿入して、パソコンへは無線LANでデータを飛ばすというやり方が登場するとみられている。大塚商会はこれらや光通信などを含めて、「クラウドコンピューティング時代」を見据え、さまざまな通信環境で安心して使える「高速モバイルシステム」を世に送り出そうとしているとみて間違いなさそうだ。