デジタルトレンド“今読み先読み”

<PND(パーソナル・ナビゲーション・デバイス)>市場に変化の兆し 付加価値モデルで低価格化に歯止め

2010/11/25 16:51

週刊BCN 2010年11月22日vol.1359掲載

 PND(Personal Navigation Device)が相変わらず好調だ。大手メーカーは、2010年度の市場規模を出荷台数で120~130万台に達するとみており、2011年度も成長を見込んでいる。PNDの大手メーカーである三洋電機、ソニー、パナソニックの主要販売チャネルは、家電量販店。これまでカー用品店を重視してきたパナソニックが、今年前半から量販店チャネルの強化に踏み切るなど、3社間の競争は激しさを増している。各社は低価格化を懸念しながら、シェアの維持と来年以降の市場活性化に向け、策を練っている。


高価格帯商品へのシフトで収益性を高める

 三洋電機は、11月上旬に実勢価格10万円前後の上位モデル「NV-SD760FT」を発売した。「これを皮切りに、PNDを高価格帯商品へとシフトさせる」(三洋電機コンシューマエレクトロニクスの大庭功社長)という方針を掲げている。これまで、「ゴリラ」のラインアップに価格を抑えた小型・軽量エントリーモデルの「ゴリラ・ライト」シリーズを加えるなど、積極的に普及機種を展開してきたが、地上デジタルテレビチューナーなどの高機能を盛り込んだ新機種の投入からは、市場に新たな刺激を与えようとする意図がうかがえる。

 PND市場は、2009年秋から右肩上がりで推移している。けん引するのは、三洋電機とソニーが09年後半に、パナソニックが10年前半に投入した小型・軽量モデルだ。クルマだけでなく、自転車や徒歩でも利用できる“マルチ・ユース”を前面に押し出した小型・軽量モデルは、初めてナビを使うユーザーに受け入れられた。しかしメーカーは、低価格のエントリーモデルだけでは旨みがない。ハイエンドモデルでもユーザーを獲得する必要があると考えて、高性能モデルの開発・展開に取りかかってきた。

三洋電機の「NV-SD760FT」。低価格化に歯止めをかける期待の新製品だ

 三洋電機は今回、10万円前後の高価格モデルの投入というかたちで、PNDの低価格化に歯止めをかける動きを本格化させた。地上デジタルテレビチューナー搭載をアピールし、ユーザーの拡大に注力していく。

ソニーの伊集院正宗
マネジャー
 「nav-u」を展開するソニーは、今年8月に、実勢価格が5万~6万円前後の上位シリーズ「NV-U76」を発売し、3月に投入したエントリーシリーズ「NV-U35」(3万円前後)とあわせ、ラインアップの二極化を明確にした。「ユーザーの1台目と2台目のクルマを同時に狙う戦略。両方の価格帯に製品を揃えておくことが重要だ」(パーソナルデバイスMK課の伊集院正宗マーケティングマネジャー)としている。10月の「BCNランキング」をみると、2万5000以上3万5000円未満と4万以上5万円未満は、販売台数が最も多い価格帯だ。ソニーの価格戦略は、現在の市場のニーズに合致している。

 問題は価格の維持。伊集院マネジャーは、「われわれがやるかどうかは別にして、地上デジタルチューナー搭載などの新しい機能で付加価値をつけるのは一つの方法だと思う。しかし、最終的にどうすれば価格を維持できるのかという問いには、まだ明確な答えがない」と語る。

2010年8月に発売されたソニー「nav-u」の上位シリーズ「NV-u76」

スマートフォン/スレートの普及に危機感

 低価格化に加え、もう一つ、PNDメーカーが頭を痛めるのは、人気を集めるスマートフォンやスレートの存在だ。これまでもカーナビと携帯電話のナビアプリとの差異化に必死だったが、小型のPNDとほぼ同じ画面サイズや画質をもつスマートフォンや、iPadなどのスレートについては、さらに差異化が難しい。10月の電機/IT総合見本市「CEATEC JAPAN 2010」では、パイオニアがドコモのXperiaと連動したナビゲーションクレードルを参考出展。地図ソフトのゼンリンは、iPad用の地図アプリを披露した。スマートフォンなどの新型端末は、PNDの強力なライバルになりつつある。それでも、「スマートフォンには、バッテリのもちなどの弱点がある。普及が続いても、PNDは残っていく」(伊集院マネジャー)という見方があるように、決して市場がなくなるわけではない。

10月発売のパナソニック「CN-SG500」。
約100冊分のガイドブックを収録し、旅行プランを作成できる

 さらに来年は、現在の三洋電機、ソニー、パナソニックの3社を軸とする市場構造に、大きな変化が訪れる可能性がある。来年4月、三洋電機がパナソニックの完全子会社になるからだ。三洋電機の「ゴリラ」とパナソニックの「ストラーダ」の両ブランドを、どう扱っていくのか。両社は「未定」としているが、子会社化によって市場は動いていくだろう。三洋電機が高価格帯モデルへのシフトを図り、収益性の高いブランドを構築しようとするのは、「ゴリラ」の維持を目指した動きとも考えられる。(ゼンフ ミシャ)
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