震災が起業の気づきに
東日本大震災が起こった2011年、避難所に掲示された安否情報を携帯電話の“写メ”で送ってもらい、それをキーパンチしてネット上に公開。誰がどこに避難しているのかを家族や友人に知らせるボランティア活動に取り組んだ。
そこで「キーパンチという地味な作業をコツコツ積み上げることで大きな価値が生まれ、社会経済の役に立つ」ことを感じ取り、起業へとつながった。
その後、レシートの入力代行による家計簿作成サービス、法人向けの領主書入力代行サービスを立ち上げたが、コロナ禍の影響を受け、領収書の件数が大きく落ち込んでしまった。
コロナ禍のつまずきから急回復
打開策として打ち出したのは、将来構想として温めていた請求書の入力代行サービスだ。「大切な請求書の送付先を当社センター宛に変更してもらえるのか」と不安要素もあったが、多くの企業に出社制限がかかるなかでの請求書の入力代行は、企業ユーザーにとってむしろ“渡りに船”だった。
プロジェクト始動からわずか半年で立ち上げたにもかかわらず、直近では売り上げの3割を占める稼ぎ頭に成長。既存事業と合わせて900社を超えるユーザー企業を獲得した。
新規参入少なく、需要は大きい
領収書や請求書は紙が占める割合が多く、データの受け渡し方式もメールや専用サイトからのダウンロードなどまちまち。手間がかかり、利幅の薄いキーパンチや原本を扱うアナログ的な業務が絡むため新規参入するスタートアップ企業が少ない一方、需要は大きい。
「洋菓子のミルフィーユのように、地味で手間がかかる作業の“層”を幾重にも積み重ねることで大きな価値を創り出す」。創業の原点である価値創出の仕組みを愚直に実践していく。
プロフィール
黒崎賢一
1991年、東京都生まれ。筑波大学情報学群に在学中にBEARTAIL(ベアテイル)創業。2022年4月、TOKIUM(トキウム)に社名を変更。
会社紹介
TOKIUM(トキウム)は領収書をスマホで読み取ってデータ化する「TOKIUM経費精算」と、請求書を受領代行してデータ化する「TOKIUMインボイス」などを手がける。クラウドソーシングで約2000人のキーパンチャーを動員し、900社を超える企業顧客を獲得。直近1年間の新規受注金額は前年比で4倍に増える。