6月24日、米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが東京大学大学院情報理工学系研究科で「The Digital Deca de The Vision of Future Environment」と題した講演を行った。冒頭、「（今回、講演を行うにあたって）日本に来たのは初めてかと聞かれたが、そんなことはない。すでに30、40回は来ている。だが、誰も私を大学に連れてきてくれなかった。今回、ようやく大学を訪ねることができて、非常にうれしく思っている」とコメント。あえて前置きしたことからもわかるように、バルマーCEOが日本の大学を訪れるのは初めてのこととなる。

　講演では、「多くの人から、本当の意味でのITのイノベーションは終わったのかとたずねられる。確かにこの10年で、パソコン、携帯電話と次々にイノベーションが起こり、その後でITバブルの崩壊が起こった。この状況だけ見れば、これ以上のイノベーションの可能性はないように思えるかもしれない。しかし、間違いなくこれからの10年のイノベーションはこれまでの10年のイノベーションを上回るものになる」と指摘。

　「ここ東大は日本で最高レベルの大学だが、それでもみんなが手書きでメモを取り、無線LAN環境も実現されてはいない。本来は講演を聞いている人がメモを電子上でとって、無線でインターネットに接続し、私の講演内容を会場の外にいる人にインスタントメッセージで伝えるといったことがあってしかるべきだ。まだ革新すべき部分は大きく、今後10年はこれまでの10年以上に大きなテクノロジーの革新が続く」と、まだまだ大きなインパクトある新たなIT技術が登場してくると強調した。そして、タブレットPCによる文字認識技術、テキスト文章の読み上げ技術、コミュニケーション、ネットミーティングなどを紹介し、「2年後には私の腕時計は無線でインターネットに接続して、会場の外にいる人とリアルタイムでコミュニケーションがとれるようになっているだろう」と、今後実現可能となるテクノロジーを予見した。

　講演後には学生との質疑応答の時間がもうけられた。質問の1つに「日本の携帯電話にはマイクロソフトのテクノロジーが使われていない。こうした点を脅威と感じているか」という内容があった。これに対するバルマーCEOの回答は明快であった。「我々が現行製品以上にユニークで、価値があると感じてもらえる製品を開発するしかない」おそらくこの回答は、東大大学院情報理工という技術系の学生を前にしていることを意識してのものであろうが、マーケティングに長けた企業と見られがちなマイクロソフトの成長の源泉はあくまでも技術であるとバルマーCEOが発言したのは興味深い。

　現在、IT業界は踊り場に差し掛かっている。パソコンの売り上げ不振が象徴しているように、多くのITベンダーが売り上げの成長速度を落としている。これを打破するための解答として、マイクロソフトは「テクノロジー」を重視していることがバルマーCEOの話からうかがえた。マイクロソフトは、新しい革新的なテクノロジーを提供し続けることで、企業成長が今後も続くと信じている。ほかのITベンダーもマイクロソフト以上にどん欲に、新しい市場獲得のためのテクノロジーを開発していけば、現在のIT業界の停滞を吹き飛ばすことができるのではないか。（三浦優子●取材・文）