米コンピュータ・アソシエイツ・インターナショナル（CA）は、F1チームのウエスト・マクラーレン・メルセデス（マクラーレン）のテクノロジーパートナーとして、さまざまな形で製品を提供している。マクラレーンでは、CAの「ユニセンターTNG」で遠隔測定分析装置の構築や、「ブライトストア・ハイアベイラビリティ・マネージャー」で2重のデータバックアップなどを行っている。F1レースは、1000分の1秒という、ほんのわずかなタイムの差で勝敗が決まる世界。F1チームは、レースでライバルチームに勝つために徹底したIT化を図っている。（佐相彰彦）

マクラーレンと共同開発

■「ユニセンターTNG」でマシンのデータを収集

　CAは、レース本番とテスト走行で利用できる遠隔測定分析装置をマクラーレンと共同で開発した。 この装置は、CAのシステム統合運用管理製品「ユニセンターTNG」を応用したもの。自チームのレーシングマシンを監視し、レースやテスト走行におけるレーシングマシンのパフォーマンスをデータとして収集する。サーキットを1周走行したレーシングマシンが発生するデータの量は約4MBになるという。

　「ユニセンターTNG」は、マシンから収集したデータに基づき、マシンの3次元イメージを作成する。マクラーレンでは、マシンがレース走行中にどのような走りを見せるかを実際に近い形でシミュレーションでき、なおかつレース走行中にもマシンの状態を把握することが可能となる。

　レーシングチーム・ITアナリストのマーク・ジェンキンス氏は、「マシンの各機能がきちんと作動しているかを一目で把握するため、適確に分析できる」と語る。

　レーシングマシンのデータ収集や遠隔操作は、「ピット側のコンピュータとレーシングマシンの双方向で送受信が可能なシステム『2wayテレメトリー』を利用している」という。

■遠隔操作でトラブル解消も

　「2wayテレメトリー」を使うことで、ピット側のコンピュータでは、マシンのデータ収集に加え、走行中に発生したマシンのトラブルなどを正常に戻すことも可能だ。データは、ライバルチームに収集されないよう何十もの暗号化をかけている。

　マシンには、約120ものセンサーを搭載している。マシンのデータは、各センサーの情報を集約しているため、マシンがどのような状況かという詳細なデータを送信することとなる。ジェンキンス氏は、「レーシングマシン自体が『コンピュータ』といっても過言ではない」と強調する。

■レースでの勝利は徹底した技術がカギ

　マクラーレンでは、データが突然消えても迅速に対応できるよう、データバックアップ製品「ブライトストア」を導入した。データ収集の際には、別のサーバーにも2重でバックアップしている。

　今後のIT技術導入における課題については、処理能力の速度を上げることに加え、「セキュリティをさらに強化する。いまのところ、暗号化したマシンのデータは一度もライバルチームに盗まれていない。しかし、より高度なセキュリティシステムを導入していきたい」としている。

　IT化への取り組みに関しては、「レースでは、1000分の1秒の差で勝敗が決まってしまう。競争に勝つためには最先端の技術を導入することが重要だ」としている。

　優れたレーシングドライバーを獲得することがチームを優勝に導く必須条件であることは確かだが、ドライバーの技術や経験、カンだけでなく、IT化を図ることで総合的なチーム力を向上し、マシンの性能やドライバーの技術を最大限に引き出すことが勝利につながるという。

　例えば、レーシングマシンのデータを収集、分析することで、レーシングドライバーに対して、「今のマシンの状況では、全力で走行していても大丈夫だ」や、「勝負をかけたほうがいい」、「一回ピットインしたほうがいい」などの指示ができる。

　F1業界では、レーシングマシンの設計やテストなども、すべてコンピュータ上で行われているという。華やかなF1レースの舞台裏では、激しい情報化戦争が繰り広げられている。