前回はケベック州のIT集積地区「マルチメディアシティ」に焦点を当てたが、カナダにはそれ以外にも、IT産業への取り組みで引けを取らない地域は多い。マルチメディア事業が盛んなのはケベック州と同様の感はあるが、教育機関の充実や好立地を活かした発展などで、それぞれに独自色がうかがえる。ケベック州とともに、カナダの3大IT拠点を担っているオンタリオ州、ブリティッシュコロンビア（BC）州の特色を追った。（木村剛士）

■オンタリオ州に国の半数のIT企業が集結

　オンタリオ州には、トロント市と周辺地区を含めた「グレーター・トロント・エリア（GTA）」と呼ばれる地域がある。

　カナダのIT企業の50％はオンタリオ州にあり、そのうち60％がGTAに集積。北米有数の規模を誇っている。企業数はGTA全体で3100社を超え、総従業員数は15万5000人にものぼる。

　映像・マルチメディア産業や、映画・テレビ番組制作分野でも、GTAは北米有数の集積地で、アニメーション技術やコンピュータ・グラフィックスの処理などで高い技術を有する企業が多い。

　その背景には、トロント大学やヨーク大学をはじめ、eコマース（電子商取引）分野に強いセネカカレッジ、アニメーション分野を得意とするシェリダンカレッジなど、ITに特化した教育機関の充実がある。特色ある教育・研究も多く、卒業者はマイクロソフトやIBMなどの大手IT企業に多数採用されている。

　シェリダンカレッジは、コンピュータ・アニメーション教育では、草分け的な存在として世界的に知られ、「アニメーション界のハーバード」ともいわれている。現在、コンピュータ・アニメーション技術はハリウッドの映画制作には欠かせない存在となっており、ハリウッド映画の80％以上に使われているという。また、それ以上にコンピュータ・アニメーションを応用した3D（3次元）技術は、航空官制システムや遠隔医療システム、電子商取引などの先端技術に不可欠な基礎技術となっている。

　シェリダンカレッジはこれらの先端技術をSGI、ソニーなどの企業と共同で開発している。 オンタリオ州政府のジョン・コツォマイティス・上級エコノミストも、「シェリダンカレッジをはじめ、オンタリオ州にあるIT関連の大学は世界的に高い評価を得ており、優秀な技術者を育成できる環境が整っていることが、オンタリオ州の最大の強み」と話す。 

■BC州、日米企業との取引が密接 

　一方、カナダ最西部に位置し、IT関連企業が約3000社ほど集まるのがブリティッシュコロンビア（BC）州だ。

　アジア地域、米カリフォルニア州に近い土地柄から、カナダ国内の企業よりも、米西海岸の企業と密接な関係をもちながら発展している。

　BC州ハイテク産業団体のジョージ・ハンター専務理事は、「シリコンバレー、ハリウッドといった米IT先進地区と近距離にあることから、IT産業が発展した。創業間もない10人以下のベンチャー企業が大半だが、技術は他の州よりも先進的だ」とその優位性を語る。

　同州は、ロサンゼルス、ニューヨークに次ぐ北米第3の映画制作エリアに位置づけられ、年間の映画撮影数は200本近くにのぼる。バンクーバーを中心に、70の映画製作施設、50の撮影舞台などの施設を擁し、「ハリウッドノース」といわれている。こうした映画産業を背景にソフトウェア産業が発展し、コンピュータ・グラフィックス技術、画像処理、アニメーションなどの企業が集積し、急成長している。

　アジア各国との取り引きも他州より盛んで、BC州の企業と提携する日本企業は他州よりも多いという。

　今年11月、BC州のアイデックス社と、画像や文章を拡大するスマートビュー技術でOEM（相手先ブランドによる生産）契約を結んだソフトウェア開発会社、システムイオ（東京都港区）の鈴木浩・常務取締役は、「BC州のIT企業は、日本市場にはない優れた技術をもっている。しかし、他の州に比べて小規模な企業が多く、市場に出ていない技術・製品が多い。コスト面、技術面ともに大きなメリットがある。また、当社はカナダ企業と交流する場を多数設けているが、日本との距離が近いことは意外に重要なポイント」と話す。

　BC州のIT企業は、小規模ベンチャー企業が大半だが、カナダ第3のIT集積地域となるまでに急成長を遂げた。

　しかし、その技術や製品がまだ眠ったままの企業が多い印象を受ける。立地を活かし、アジアを中心に、より一層の知名度アップを図れば、さらに大きな成長を遂げる潜在力を秘めているのではないだろうか。