日本アイ・ビー・エム（日本IBM、大歳卓麻社長）は、ミドルウェア戦略を加速する。「ウェブスフィア」、「DB2」、「ロータス」、「チボリ」の4系統に分かれていた各ブランドの戦略部門を統合。6月1日付で横断的組織「クロスブランド事業推進」を設置した。これまで各ブランドごとに展開していた販売促進策、マーケティング戦略に相乗効果をもたせ、統合ソリューションの展開に拍車をかける。これにより、SMB（中堅・中小企業）市場の開拓に一気に弾みをつける構え。日本IBMのミドルウェア戦略は総仕上げの段階に入った。（佐相彰彦●取材／文）

SMB市場開拓の陣容固まる

■各ソフトの営業推進機能を統合

　新たに設けた「クロスブランド事業推進」は、日本IBMがもつミドルウェア「ウェブスフィア」、「DB2」、「ロータス」、「チボリ」のブランドごとに組織していた営業推進機能を統合した。ソフトウェア事業を統括する堀田一芙・常務執行役員ソフトウェア事業担当の直属組織となる。人員体制は約40人でスタートした。

　これまでは、各ブランドごとに営業推進策を打ち出してきたため、ブランドによっては得意なマーケット、不得意なマーケットが散見された。加えて、潜在需要を掘り起こし切れていないケースもあった。

　堀田常務は、「顧客のソリューションに対するニーズはさまざま。ブランドごとの販売戦略は過去のものといっても過言ではない。各ブランドで企画するよりも、すべてのブランドを網羅した販売戦略を立てることが顧客を増やすことになる」とし、統合ソリューションの重要性を強調する。「ブランドを超えて複数のソフトウェアを組み合わせた提供や、すべてのブランドを網羅した統合的な販売展開など、顧客のニーズを吸い上げて販売戦略を打ち出し、製品の拡販につなげる」方針だ。

■中小企業の需要開拓を狙う

　米IBMはこのほど、アプリケーション開発ツール会社「ラショナルソフトウェア」を買収した。これにより、アプリケーション開発環境ツールを手に入れることとなり、ハードウェアビジネスやコンサルティングビジネスの展開に加え、ミドルウェア製品の統合化戦略を一段と強めることになった。

　新しく加わった「ラショナル」ブランドは、大規模J2EEビジネスアプリケーションの開発を容易にするアーキテクチャベースの新環境「Rational Rapid Developer」と、シームレスな設計と開発環境を提供する「IBM Rational XDE」ファミリーを得意とする。

　ラショナル製品は、ソフトウェア開発の全工程をサポートするため、これまであった4ブランドの上位に位置づけられる。

　これにより、IBMが掲げる「e－ビジネス・オンデマンド」を推進するための製品基盤が本格的に固まった形となり、「ラショナル製品がIBMブランドに加わったことも、クロスブランド事業推進を設置した理由」（堀田常務）でもある。

　ブランドを増やしたことで、「1社独占で囲い込む可能性が一層高まってきた」との見方も強まるが、「ミドルウェアは当社製品に限らず、さまざまな製品をつなぐことが重要。他社のハードウェアやソフトウェアとの互換性も視野に入れた『オープンな環境』に取り組んでいく」（同）と前向きだ。

　日本IBMのブランド強化策や組織の再編は、同社が以前から取り組んでいる中堅・中小企業の顧客獲得を推し進める狙いがある。中堅・中小企業にミドルウェアを導入する場合、業務アプリケーションの中に組み込んでソリューションとして提供する必要がある。

　同社では、大手パソコンソフトディストリビュータを軸に中堅・中小企業を開拓する方針を打ち出しており、これに呼応した今回の営業推進組織の再編を販売支援策の1つと位置づける。

　堀田常務は、「3か月程度でクロスブランド事業推進を設置した成果が出てくる」と自信をみせる。

　その成果は、SMB市場を顧客として開拓できたかどうかという判断材料にもなりそうだ。