大企業のIT投資が景気の低迷で伸び悩むなか、中堅・中小企業市場を狙ったITビジネスに、システムインテグレータ（SI）や業務ソフトウェア会社が活路を見い出そうとしている。特に国産ERP（基幹業務システム）ベンダーが独占していたERP市場には、大企業向けERP大手の外資系2社が今年に入り相次ぎ参入、日本勢を脅かす。中堅・中小企業市場を制することで、「大企業への相乗効果も生む」ことも狙った戦略でどこまでシェアを奪うのか。注目が高まっている。（谷畑良胤●取材／文）

シェア合戦の熾烈さ増す

■SAPとオラクル、新製品を投入

　SAPジャパンは今年2月、昨年夏に欧米で発売した中堅・中小企業向けERPソリューション「mySAP All-in-One（オールインワン）」を、「市場の機は熟した」（今井俊哉・事業開発本部長兼アライアンス本部長バイスプレジデント）として、日本市場に投入した。

　景気低迷により、中堅・中小企業では、IT投資を極力抑えようとするニーズが高い。これに配慮し、「オールインワン」は一般に作業が長引くなどで予定より構築費用がかさみがちな点を改めた。日本のSIパートナーが持つシステム事例をもとに、短期間で導入可能なERPテンプレート（ひな型）を業種別に13種類用意した。

　SAPジャパンの主力である大企業向けERP「R／3」に比べ、コストと期間をそれぞれ3割削減できる。この事業では、SAP製品を5社以上の企業に導入した実績のある日本アイ・ビー・エム（日本IBM）など、SI9社のパートナー企業と市場を開拓する。すでに、ソフトライセンスで2000－6000万円規模の事業を6件成約。今年中に30件の導入を目指す。

　これに対し、国内の大企業向けERP市場でSAPジャパンと2強体制を築く日本オラクルも、中堅企業向けERPソリューション「Oracle Neo（オラクル・ネオ）」の提供を6月から開始した。

　日本オラクルが狙う「中堅市場」は、「年商30億円以上の企業」だが、「懐を大きく構え、スコープ（範囲）が合えば柔軟に対応する」（倉持快夫・パートナービジネス本部ソリューションラボプラクティスマネジャー）としているため、SAPジャパンが中堅・中小企業と定義する「従業員100－1000人規模の企業」と競合する。

　「オラクル・ネオ」は、SI企業のパートナーが保有する同社製品を用いたシステムのテンプレートのうち、一定の評価基準で認定された「実績のあるシステム」で、短期間での構築が可能だ。

　すでに、CSKなど23社のSI企業とパートナー契約を交わし、業種別に38種類のテンプレートを準備した。今年中に50社以上のパートナー契約を結ぶ計画。倉持プラクティスマネジャーは、「『オラクル・ネオ』に認定されたテンプレートは標準化され、他のSIがそれを活用できる。テンプレート数を増やしたい顧客ニーズに応えたい」と、拡張性の高さを強調する。

■大企業向け市場は飽和状態

　中堅・中小企業のERP市場は現在、住商情報システムの「ProActive（プロアクティブ）」や富士通の「GLOVIA（グロービア）－C」、オービックの「OBIC7」などの製品がシェア上位を形成する。だが、SAPとオラクルの製品を導入する大企業の関連会社や取引会社に対しては、導入しやすさで国産ERP企業より市場優位性があると分析する専門家もいる。

　大企業向けERP市場は「飽和状態」だといわれる。中小企業向けに販売実績のある業務ソフトウェア会社も、中小企業向けのパッケージ販売が低調だと、従業員50－200人規模の中堅企業を狙ったERP製品を相次ぎ投入している。

　SAPジャパンは来年2月には、欧米ですでに投入している100人規模以下の中小企業向けERPパッケージ「SAP Business One」を日本でも発売する予定だ。これで同社は大・中・小規模の企業をシームレスでおさえる戦略だ。

　IBMが「ソフトの主戦場になる」と主張するSMB（中堅・中小企業）市場は、レガシー（旧式）システムの入れ替え時期と重なり、競争は熾烈さを増しそうだ。