新ビジネスは発想の転換から

　ｅ―Ｊａｐａｎ計画が、ITビジネスに携わる人にどのようなビジネスチャンスを生み出すのか――。こう問いかけた時、「主要部分のシステム構築は大手ITベンダーが担当するので、自分たちには関わりがない」と答えるシステムインテグレータ、ディーラーも多いだろう。しかし、視点を変えると、思わぬビジネスチャンスを見つけ出すことができるのではないか。それを実証したのが「ブロードバンドスクールコンソーシアム」の試みである。ブロードバンドスクールコンソーシアムは、ｅ―Ｊａｐａｎ計画で掲げられる「2005年までにすべての公立学校に高速ネットワークを接続する」という目標が実現した時に、ブロードバンドを使った学校教育の在り方を探る目的で、民間企業が中心となり設立された。

　02年4月から岡山市の2つの小学校で実践教育がスタートし、その成果が認められ、今年度は岡山市内10校の小学校が「岡山市『教育の情報化』実践モデル事業」としてモデル校に指定された。さらに、東京都千代田区の公立小・中学校がブロードバンドスクールに参加したが、岡山市、千代田区ともにシステム案件は、ブロードバンドスクールコンソーシアムのメンバーで岡山市に本社を置くシステムズナカシマが受注した。

　同社が岡山市に続き、千代田区でも案件を受注したのは、実践教育の中で得たシステム構築ノウハウをもっていたからだ。最初に実践教育をスタートした岡山市の2つの小学校では、ノートパソコン40台を無線LANにつなげて利用したが、授業が始まってみると児童40人が一斉にアクセスすると無線LAN規格が802・11bでは対応できず、802・11gの方が適していることがわかった。これらの経験を生かすことで、ｅ―Ｊａｐａｎ計画から派生するモデル事業が、1つのビジネスチャンスを作ったのである。

　コンソーシアムの設立に関わったマイクロソフトの眞柄泰利取締役は、「実践してみたからこそ、わかったことがたくさんあった。ビジネスとしても大きなノウハウになる」と指摘する。だが、スタートはビジネスというよりも、子を持つ親の教育に対する関心が発端だった。3人の子供をもつ眞柄取締役が、「学校にパソコンが導入されているのに、使いこなしていないことに不安を感じていた」という。そんな時、現マイクロソフト社長のマイケル・ローディング氏から、「うちの子供たちが通うアメリカンスクールを視察してみたらどうか」というアドバイスを受けた。

　アメリカンスクールでは、「1500人の生徒に対し800台のパソコンが導入され、それを道具として使いこなしていた」という。導入したパソコンが十分に生かされてない日本の学校とは全く違う世界が広がっていた。すぐに岡山市長に話を持ちかけ、ブロードバンドスクールコンソーシアムがスタートした。今年2月、米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が千代田区の昌平小学校に出向いたのも、ブロードバンドスクールコンソーシアムでの実践がベースとなっている。

　今後は、「シニアネットの人たちと連動し、昔の遊びを紹介したり、NCネットワークと連動し物作りのプロを紹介して、子供達とネットミーティングで対話してもらうなどの提案を行っている」と、学校向けコンテンツといってもかなり幅広い発想で提案を行っていく計画だ。発想の転換が新たなビジネスを生むことを、ブロードバンドスクールコンソーシアムの試みは示していないだろうか。　三浦優子●取材／文