ファイナンス面のアドバイスも

　中小企業のIT導入推進を目的に2001年11月から展開されてきたマイクロソフトの全国IT推進計画が、11月下旬から「全国IT推進計画Ⅱ」として新たなスタートを切った。全国IT推進計画では、全国IT実践塾、IT体験キャラバンなどの取り組みを展開してきた。その間、マイクロソフトが中小企業向け市場で大幅に売り上げ、収益が上がったというわけではないようだ。しかし、パートナー企業の大塚商会・大塚裕司社長は、「地道な取り組みを行ってくれたことは大変ありがたかった、しかも、マイクロソフトの製品を前面に押し出さない啓蒙活動は、これまでにない素晴らしいものだった」と高く評価する。

　この取り組みは日本で独自にスタートしたが、米本社ではこれを評価し、Ⅱの発表会にはステイーブ・バルマーCEOが登場、「これまでの全国IT推進計画で学んだことは、当社のワールドワイドでの展開にとって貴重なノウハウになる」とコメントした。バルマーCEOの発言の背景には、全国IT推進計画が自治体からも高く評価を受けており、オープンソース導入が進む日本の自治体向けシステムに、マイクロソフトとして一矢を報いたいという意図もあっただろう。だが、それとともに、中小企業市場開拓には従来の試みとは全く異なる地道な活動が必要であることをバルマーCEOが認めたことも間違いない。

　これまでの取り組みが高い評価を得ている全国IT推進計画だが、Ⅱのポイントとなるのが、「中小企業向けコンサルタントとして、新たにマイクロソフト認定システムコーディネータ(MCSC)制度を導入し、IT導入で金融面でもプラスになる仕組みをつくり出すことだろう」とマイクロソフト日本法人の眞柄泰利取締役は話す。MCsCが中小企業の経営状況を分析し、条件が整えばファイナンシングの与信審査にMCSCのアドバイスを活用するという枠組みを新たに構築。これまでのように、資金的な面がネックとなってIT導入が実親できなかった中小企業を資金面でもサポートする。

　「ITコーディネータ資格取得者の中には会計士、税理士の方がたくさんいる。彼らに中小企柔のバランスシートを見てもらって、アドバイスをしてもらう。これはIT業界だけでは実現できない、会計の専門家の力を借りる新たな取り組み。ITバブルと言われていた時期が終わり、その時期にITを導入しなかった中小企業が、ITとは所詮ブームで実益を得るものではなかったと考えている状況を変えたい」と眞柄取締役は話す。中小企業経営者にIT導入はブームに乗って行うものではなく、実益を得るために行うものだという意識をもってもらうことが狙いとなっている。

　あるディーラーは、中小企業のIT導入について、「パソコンを1台導入するよりも、取引先とゴルフをした方が売り上げアップにつながるという経営者もいる」と苦笑しながら話す。ファイナンスサービスの提供は、「ゴルフの方が有益」と考える中小企業経営者の意識改革を促す手段でもある。おそらく、マイクロソフトが成功すれば、追随する企業も出てくるのではないか。これだけ状況が整っただけに、全国IT推進計画では、マイクロソフトの中小企業ユーザー増加という成果も必要だ。Ⅱの成果次第で日本の中小企業市場は大きく変わることは間違いない。 三浦優子●取材・文