もっと店頭を活用しよう

　パソコンの店頭販売では、主に個人客を想定した販売施策を行っている。一方、企業向け製品の販売はシステムサプライヤーやメーカーが担当している。しかし、店頭は企業ユーザーの販売動向にもプラス影響を及ぼす。例えば、NECの「PC―98」が全盛だった1993年、富士通が「FMV」を発売し、かなり思い切った価格戦略でパソコン市場でシェアを取りにかかった。当時の富士通の幹部はその狙いを、「コンシューマ市場でのシェア拡大が本当の狙いではない。企業ユーザーに富士通の指名購入を増やすことが真の狙いだ」と説明した。

　店頭で商品を販売し、シェアを獲得することで企業ユーザーへの知名度が上がる。93年はパソコン市場が上り調子の時期だったこともあり、富士通はシェア拡大策をとった。現在はパソコン市場が90年代に比べ伸びていない。店頭でのシェア拡大よりも、収益性を高めることの方が優先される時代である。過剰在庫がメーカーの収益に大きな負担を強いることから、企業向けパソコンはBTO（ビルト・ツー・オーダー＝注文生産）方式で作られ、店頭で販売されるコンシューマ向け商品とは完全に切り分けされている。

　だが、店頭での商品販売が企業ユーザーへのアピールの場になるということは、実は90年代も現在も変わってはいない。顧客への製品をアピールする場として、店頭をもっと上手く活用していくことはできないだろうか。店頭で販売していない製品をどう顧客にアピールするのかで悩むケースも出てきている。NECでは、企業向けパソコンがBTO方式になったことで、「実際に商品を見ると、『なかなか良いではないか』と評価してもらうのだが、そういう場がないので、製品の良さをアピールするのに苦労している」という。

　パソコンは、USBスロットの位置など細かな部分で使い勝手の良し悪しを判断することもあるため、カタログだけでは分かりにくい部分がある。カタログでは数値スペックと価格にばかり目が行きがちだ。NECでは、企業向けパソコンに「J」という新しいモデルを作って販売している。これは価格も含めてエンドユーザーにわかりやすい商品とすることを狙ったものだ。現在、ユーザー向けアピールが最も上手くいっているメーカーといえばデルだろう。デルはウェブサイトなどで積極的に製品をアピールしているが、NECのJモデルはデルを意識していると思われる部分が多分にある。

　だが、デルとは全く逆の方法でユーザーにアピールし、成功しているメーカーもある。日本では九十九電機と石丸電気が独占販売しているイーマシーンズだ。イーマシーンズは、メーカー自身はコスト削減を狙い広告をしない。その代わりに販売店側が広告など商品アピールを行う役目を担っているのだという。店頭を利用することで、逆にコストダウンにつながるケースもあるのである。もちろん、イーマシーンズは個人をターゲットとしているだけに、企業ユーザーにどれだけ訴求力があるのかを単純に計ることはできない。しかし、イーマシーンズの戦略を見ると、店頭の活用方法をもう一度考え直してみても良いのではないかと思えてくる。店頭の活用方法を見直してみることで、新しいパソコンのアピール方法が見つかる可能性は、まだまだある。 三浦優子●取材／文