学習コンテンツの利用加速へ

　学校を高速大容量の回線でつなぎ、授業に使う学習コンテンツをネットワーク上で配信する動きが自治体レベルで活発化している。政府が打ち出した「e―Ｊａｐａｎ戦略Ⅱ」で提唱された「ITの利活用」が、ようやく学校教育にも波及し始めた。

　昨年までに、行政のネットワークと学校を結び、動画などの学習コンテンツを配信している自治体は北海道、宮城、埼玉の3道県や一部の市町村に限られていた。茨城県は来年度予算で、博物館や図書館など生涯学習施設の情報も学校で見られるようにする「教育情報ネットワーク」の開発を、パワーネット（東京都港区）と茨城ソフトウェア開発（茨城県東海村）に委託して2005年4月から運用開始する計画だ。

　茨城県の教育ネットワークは、県と市町村を結ぶネットワークと、県立高校や特殊教育諸学校など公立校130校を毎秒100メガビットの高速大容量回線で結び、県教育庁などが開発した学習コンテンツを授業で活用する。

　茨城県教育庁の石川秀一郎・総務課教育情報化推進担当主任は、「従来、学校では、ITについて学ぶ『情報教育』に主眼が置かれていた。だが、これからは、ITを使い学習する『教育の情報化』を推進しなければならない」と語る。また、最近では、社会科の授業などで学校外の人材を活用する機会が増えているが、「実際に学校へ行かなくても、オンライン上でコミュニケーションが図れる」（同）とネットワーク活用に期待する。

　しかし、先行する3道県で学習コンテンツを使う側である学校の反応は鈍い。「使う側の意図しない学習コンテンツが多い。自治体が開発して無償提供されている学習コンテンツは、使わない先生が多い」（公立校校長）のが現実で、有効活用されているとは言い難い状況だ。

　民間の教育ソフトウェア会社が保有する学習ソフトを、総務省が提供・従量課金するシステム「ＥｄｕＭａｒｔ（エデュマート）構想」として昨年6月にスタートさせた実証実験でも、「学校がデジタルの学習コンテンツを有効活用するには、従量課金を予算化するために学校の制度改正が必要だ」（教育ソフト会社の担当者）と、学習コンテンツの充実度や制度上の問題点を指摘する関係者は多い。

　茨城県では教育研修センターを中心に、授業に利用できる画像素材やドリル形式の学習コンテンツなどを自主開発し、「市販の教育ソフトは配信しない」（石川主任）予定だ。オンライン上で使う学習コンテンツに詳しい東京都三鷹市教育センターの大島克己所長は、「多忙な学校の先生だけでは、子供の興味を引く学習コンテンツを作る能力も時間もない」と、教育ソフトの専門家がタッチしない自主開発に否定的な見方を示す。

　学校への学習ソフトの普及が遅れている現状を打破するため、文部科学省は来年度予算で「コンテンツ配信事業」を開始する。従量課金をする予算制度がないために普及していない総務省の「エデュマート」に対して、地方交付税措置を取り入れる。

　この仕組みは、文科省が3年間で教育ポータルを構築し、そこから市販の教育ソフトを地方交付税を使って学校でダウンロード購入できる手法。交付税措置に当てはまらない従量課金ではなく、コンテンツ別に購入できることで、ネットワーク環境が整備されている公立学校では使いやすい。教育ソフト業界にとって、市場が低迷しているだけに需要拡大の蕫突破口﨟になる可能性が高い。 谷畑良胤●取材／文