生成AIの普及で、法人向けPCにも「AI対応」が求められ始めている。だが、企業がPCを選定するときに見るのはAI性能だけではない。価格や納期、セキュリティー、管理のしやすさ、用途への適合、そして導入後のサポートまで含めた「総合力」だ。マウスコンピューターの営業・製品・サポート各部門の責任者たちに、法人PC市場で起きている変化と、顧客の声を製品・サービスへつなげる取り組みを聞いた。3部門を横断して見えてきた、AI時代の法人PC選びの条件を探る。
法人PCの相談は用途・予算・将来性がキーワード
「AI PC」という言葉が市場に浸透してから約2年が経った。しかし法人向けPC全体で見ると、NPU(Neural Processing Unit)搭載モデルが急激に伸びているわけではない。一方でマウスコンピューターの法人向けPCブランド「MousePro」ではNPU搭載モデルの比率が高まり、営業現場に寄せられる相談も具体化してきたという。取締役兼法人営業本部の金子覚・本部長は「PCの更新で従来から多いのは、価格、納期に関する相談だ。しかし最近は、AIの活用や選定、ローカルLLMや生成AIの検証環境をつくりたいといった声が明らかに増えている。情報収集や分析、資料作成、脆弱性分析、OCR、画像・映像解析など、AIで何をしたいのかまで具体的になってきた」と語る。
取締役 兼 法人営業本部 本部長
金子 覚
金子本部長は、今年に入ってからのAI関連の相談を大きく三つに分ける。一つめは「そもそもAI PCを今選ぶべきなのか」という相談だ。言葉は知られていても実利が見えにくく、他社がどのように評価・選定しているのかを尋ねられる機会が増えた。二つめは「生成AIやローカルLLMなどの実際の用途に合わせ、どのようなPC構成にすべきか」である。クラウドAIを利用しながらも、データを外部に出せないといったセキュリティー上の制約から、ローカル処理を検討する企業も多い。こうした動きは、特定の業種・業界に限らず広がっているようだ。
そして三つめは、価格上昇を踏まえた構成の最適化である。特にメモリー容量は、予算との兼ね合いがありつつも、数年後に力不足とならないような構成を求める声が強いという。「『AIだから高性能なPCを』という単純な話ではない。用途、予算、将来性の落としどころを一緒に探すことが、われわれ法人営業部門に求められているのだと強く感じている」(金子本部長)
セキュリティーから静音性まで用途が増えれば要件も増える
法人PCの選定基準そのものも変化している。コロナ禍前は軽さや長時間のバッテリー駆動が重視され、その後はネットワークやWebカメラなどリモートワーク向けの機能が求められた。そして現在は、PC価格の上昇を背景に、既存設備を生かすためのデスクトップPCへの回帰をはじめ、ハイブリッドワークを前提とした軽量・長時間駆動、よりセキュアな端末や生体認証など、ニーズが多様化しているという。
製品部 部長
小林俊一
製品部の小林俊一・部長が特に挙げるのがセキュリティーと管理性だ。データ保護ではストレージの暗号化に加え、USBデバイスの利用制御、生体認証などへの要求が高まっているという。こうしたニーズに応えるべく、MouseProでは、PCの起動時から保護するセキュリティー機能を備えた製品も用意している。「OSやソフトウェア側だけでなく、PCを起動する段階から安全性を確保したいという要望がある。また、顔認証や指紋認証によって利用者を正しく認証し、端末内のデータを保護することも重要だ」(小林部長)
大量導入では、端末を「管理できる」ことも欠かせない。そこでマウスコンピューターでは、情報システム部門を持つ企業向けに、PC生産時に、ユーザーのIntune/Entra IDへ端末情報の登録代行を行う「Autopilot - ID登録代行サービス」や、ユーザーの環境や設定を反映したカスタムイメージを複数台にコピー展開する「マスターイメージコピーサービス」、ユーザー指定の備品管理シール作成・貼り付けや、MACアドレス提供など各種の法人ユーザー向け導入支援サービスを用意している。「求められるハードウェア構成をBTO(Build To Order)で提供するだけでなく、導入後すぐ業務で使えるように調整するのが法人向けPCの役割だと考えている」(小林部長)
法人ユーザー向け導入支援サービス「マスターイメージコピーサービス」
用途への最適化という点では、幅広いラインアップを前提に、メモリーやSSDなどの構成を顧客ごとに調整している。特定業務向け端末ではコストとのバランスを取り、モバイルPCでは軽量・薄型化だけでなく堅牢性や長時間駆動も追求しているという。小林部長は「液晶パネルの消費電力低減やSSDのきめ細かな電源制御など、一つひとつは小さな改善でも、それらを積み重ねることで、実際の使い勝手につながる低消費電力化を図っている」と説明する。
一方で、法人用途が広がるほど、従来は見えにくかった要求も浮かび上がる。その一つが「音」だ。「例えば、ファンごとに監視する温度や回転制御を見直すことで、あるモデルの開発では動作音を大幅に抑制した。さらにユーティリティーソフトから、静音性と性能のバランスを取る設定や、性能を優先する設定をユーザーが選べるようにしている」(小林部長)
サービス本部の飯沼茂樹・本部長も「サポートセンターへの問い合わせでも、音や熱に関する相談は2割弱を占めている」と説明する。
サービス本部 本部長
飯沼茂樹
静音化を後押しした一つの理由は、意外にも歯科医院からの声だった。歯型などを3Dスキャンする環境でGPU搭載PCが使われるようになり、「診療中にPCのファン音が大きいと気になる」という反応が寄せられたという。「以前は性能を引き出すことを第一に考えがちだった。しかし、使われる場所が広がれば、そこで求められる内容も変わる。ユーザーの声を、スペックだけでなく製品づくりそのものに反映していく必要がある」と金子本部長は強調する。
「売った後」を支える法人専用サポート
製品を業務で使い続ける法人にとって、導入後のサポートは選定条件から切り離せない。「ユーザーに安心を届けることが第一だ」と飯沼本部長は話す。
マウスコンピューターでは、問い合わせを受けるコンタクトセンターを24時間365日運営し、全国4拠点で対応している。システムをクラウド化しているため、一つの拠点が稼働できない場合でも別拠点で対応を継続可能だ。修理は東西2拠点で行い、72時間での修理・返却を掲げている。
法人ユーザーには、コンシューマーと比較してさらに一段踏み込んだ対応が必要になるという。たった1台の不具合でも、大量導入している企業では「ほかの端末は大丈夫なのか」という不安につながるからだ。そこで同社は今年2月、法人専用の問い合わせ窓口とサポート部隊を設けた。専用ダイヤルはユーザー企業だけでなく、販売パートナー各社からの相談にも対応する。「法人のユーザーでは、電話だけでは対応が終わらないケースがある。営業と一緒に現地へ伺って説明したり、その場で対応したりすることも多い。昨年度には、数百台規模の現地作業を約3カ月かけて行った事例もあった」(飯沼本部長)
原因がハードウェアにあるのか、ソフトウェアなのか、切り分けが難しいトラブルは珍しくない。その場合でも、営業とサポートが現地で確認し、必要に応じてソフトウェア側とも連携する。そこで得た知見を蓄積し、別の顧客で同様の事象が起きた際の対応にも生かしているという。
とりわけ教育現場は、営業・製品・サポートの連携が分かりやすく表れる領域だ。国のGIGAスクール構想では、長期間使う端末に対して耐久性やサポートが求められた。DXハイスクール採択校などでGPU搭載PCの需要が生まれれば、案件に合わせてサポートも強化する。大学や専門学校で1人1台のPC利用が定着する中では、耐衝撃性やバッテリー駆動時間と価格のバランスも課題になる。「担当者が学校へ赴き、部品を持ち込んでその場で点検・対応する取り組みも行っている」と飯沼本部長は説明する。
国内メーカーだからこそ顧客の声を次の提案へ
金子本部長は「公共分野を中心とした国産志向など市場の変化を捉え、製品部門とともにMouseProのセキュリティー強化にも取り組んできた」と説明するとともに、「たとえどのように市場環境が変化したとしても、当社にとって納期と供給力は『死守すべきもの』だ」と力説する。
今後、AIやAIエージェントが普及すればPCの使われ方もさらに変わっていくだろう。小林部長は「ハードウェアだけでなく、AIを含めたPC群を効率的に運用・管理する仕組みまで総合的に提案できれば、販売店やSIerの提案を支援できるだろう」と分析する。飯沼本部長も「国内BTOメーカーとして製造だけでなくサポートも国内で行うことを強みとし、販売店とエンドユーザーの関係を支えるサービスをさらに広げたい」と続ける。
マウスコンピューターが重視するのは、メーカーから一方的に製品を届けることではない。販売パートナーや実際にPCを使う顧客からの声を受け、それを次の製品やサポートへ反映することだ。「日本の企業のための日本のメーカーであり続けることが、当社の目的だ。よりユーザーに近いところで直接声を聞き、フィードバックを形にしていくことが重要だと肝に銘じている」(金子本部長)
AI時代になっても、法人PCを選ぶ条件がAI性能だけになるわけではない。用途に合う製品をつくり、必要なタイミングで届け、使い始めた後まで支える──その一連の体制こそが、販売パートナーが顧客へPCを提案する際の価値になっていくだろう。