ベンダーとパートナー間に温度差

　大規模な個人情報漏えい事件の相次ぐ発生で、情報セキュリティ対策製品・サービスは、従来主流の外部アタック対策製品・サービス以上に、内部セキュリティ対策に注目が集まっている。あるセキュリティベンダー幹部からは、「最近では、ウイルス発生時以上に個人情報漏えい事件が報道される方が注文は増える」という声も聞かれる。外部アタック対策製品はIT製品・サービスのなかでは依然好調な分野。だが、シマンテックの大岩憲三・執行役員副社長エンタープライズ事業統括は、「ウイルス対策はユーザーの規模を問わず、すでに導入済みのケースが多い。複数の脅威から情報システムを守るための新たな機能のニーズが今後注目を集める」と、外部攻撃対策製品市場が転換期にあることを示唆する。

　確かに、大手セキュリティ企業をはじめ、ファイアウォールやIDS（不正侵入検知システム）ベンダーなどセキュリティ各社は、最近1年で複数のセキュリティ機能を詰め込んだ統合型アプライアンスをこぞって開発、中核製品として売り込んでいる。ウイルス対策やファイアウォールだけでなく、IDSやVPN（仮想私設網）機能といった複数の機能を1つの筐体に詰め込んだハードウェアがそれだ。その1社であるIDSベンダーのインターネットセキュリティシステムズの松崎義雄・コーポレイトディベロップメント・国内営業統括部長は、「これまではセキュリティ市場のなかでウイルス対策やIDSなど、それぞれの持ち場でビジネスしてきたが、今後はすべて1つの市場で戦うことになる」と予測する。

　「ユーザーは管理が容易で、販売パートナーはユーザーに説明しやすく売りやすい商材」というのがアプライアンスを開発したベンダーの言い分。〝売りやすい〟だけに、セキュリティベンダー各社は、新たなユーザーの開拓につながると大きな期待を持っている。だが、販売パートナーの考えはこれと微妙に異なる。中小企業をメイン顧客に据える大手システムインテグレータのセキュリティビジネス担当者は、「確かに提案はしやすいかもしれない。だが、1つの製品で完結するようになると、販売やインテグレーションでは利益確保は難しくなる」と話す。また、「ネットワーク機器のように価格が下がるのはセキュリティで製品も一緒だろう。そうなる前に独自のサービスを用意する必要がある」と語るインテグレータもある。成長分野であるにも関わらず、むしろ危機感を滲ませる。

　セキュリティベンダー各社が、統合型アプライアンスという共通の戦略を打ち出したことにより、同様の製品で勝負することを意識してか、競合製品とのベンチマークなど、機能面での優位性を訴えている部分が明らかに強い。販売パートナーはアプライアンスでどう利益を確保するかを模索しており、機能面はもちろんだが、重要視しているのはセキュリティベンダー各社の支援体制である。ベンダー各社は、これまでも間接販売を中心にビジネス展開していただけに、支援プログラムを用意している。共同プロモーションや共同営業、販促資料の提供や販売奨励金など各社さまざまだ。自社のアプライアンスはどのような利益メリットがあるのか、どのような支援体制を用意しているかなど、ベンダーは機能以外に、まずアピールする部分があるのではないだろうか。 木村剛士●取材／文