脆弱性の対処は社会的責任

　マイクロソフトが、ウィンドウズの脆弱性対策を急ピッチで進めている。「ワールドワイド、全社的なイニシアチブをセキュリティに置いている」とは、今年2月マイクロソフトのチーフ・セキュリティ・アドバイザー（CSA）に就任した東貴彦・執行役経営戦略担当の言葉だ。昨年8月中旬に発生したウイルス「MSブラスター」の大規模被害後、マイクロソフトは、矢継ぎ早にセキュリティ施策を打ち出しているような印象を与える。「ウイルス発生後の対策手段や時間は十分にあった。だが、エンドユーザーに対する告知や説明の方法が十分であったとは言えない」（東執行役）、「ウィンドウズアップデートの必要性を伝えていたつもりなのに、あの大規模な被害状況は正直、ショックだった」（古川勝也・サーバープラットフォームビジネス本部Windows Server製品部シニアプロダクトマネージャ）と、思わぬ被害の拡大を深刻に受け止める。MSブラスター発生以降、同社が用意した新たなセキュリティ対策は、すでに10項目を超えている。

　ナローバンドユーザー用の「アップデートCD─ROM」の店頭配布、脆弱性情報受付窓口の日本語対応、セキュリティに特化した技術認定資格制度の新設、修正プログラム提供頻度の改善などがその代表例。そのほとんどが日本市場独自の取り組みだ。今月中旬には、セキュリティに特化したイベントとしては初めての「セキュリティサミット2004」を開催。システム管理者を中心に集まった多くの参加者の前で、マイクロソフトのセキュリティについての考え方や具体的な対策方法、今後のロードマップについて、東執行役と古川享・米マイクロソフトコーポレーションバイスプレジデント兼マイクロソフト執行役最高技術責任者が説明した。その場で、更新プログラム管理ツールの無償提供や、エンドユーザーを対象にセキュリティの基礎概念や実装方法などをトレーニングする教育プログラムの実施も発表。教育プログラムは、全国47都道府県で300回以上わたって開催する予定だ。このほか、「開発スキーム自体を見直し、セキュリティにフォーカスを当てた開発手法を徹底することで、質の向上を図る」（東執行役）と、開発段階からセキュリティ向上を図るという。

　ウィンドウズの脆弱性を狙うウイルスの増加で、ウィンドウズのクオリティが、常に批判の的となっている。これを払拭するため、マイクロソフトは標的となっているソフトの脆弱性の対策を本格化させている。古川バイスプレジデント兼執行役は、セキュリティサミット2004のオープニングで、「これまでこのような場所では製品の技術的な部分しか説明していなかった。だが、今回はマイクロソフトが果たすべき社会的責任の立場から説明する」と切り出している。セキュリティの必要性がますます高まっているなか、マイクロソフトがようやく「信頼できるコンピュータ環境の実現」を掲げて、脆弱性対策を社会的責任として取り組んでいく姿勢を示した。もちろん、マイクロソフトだけではない。他のソフトベンダーも共通して取り組む必要がある。欠陥があればリコールに結びつくのは他の産業では常識。〝ソフトに欠陥（バグ）は付き物〟というソフト業界に蔓延する考え方を見直す必要がある。マイクロソフトが脆弱性の是正に本気で取り組むことで、他のソフトベンダー各社も製品のクオリティや出荷後のフォローについて、対策強化や施策を見つめ直す必要があるだろう。 木村剛士●取材／文