ERPベンダーから脱皮へ

　SAPの記事を書く際、まくら言葉として「ERP（統合基幹業務システム）ベンダーの」と付けることが多い。だが、この先は、この言葉が使えなくなりそうだ。日本で4月12日から出荷開始した統合アプリケーションプラットフォームの最新版「SAP NetWeaver（エスエイピー・ネットウィーバ）2004」が、ERPなどソフトウェアの単体売りであった同社戦略を大きく変えることになるからである。

5月12─14日に米ニューオリンズ（ルイジアナ州）で開催された同社の年次イベント「SAPPHIRE（サファイヤ）'04」では、ヘニング・カガーマン会長兼CEOが「SAP R／3以来の大革命」と、ネットウィーバが今後、SAPの基盤技術になると語った。競合メーカー製品の統合を阻み続けたことで名高いSAPが、「オープン性」をキーワードに掲げ、戦略転換を宣言した瞬間だった。

新版のネットウィーバ2004を詳細に説明するにあたり、SAPジャパンの菅沼隆太・ソリューション本部Net Weaverソリューションズディレクターは、その役割を住宅建築に例えてこう説明する。「これまでは古い住宅をすべて破壊し、新たな住宅を建てていた。今後は、古い住宅の屋台骨や一部施設を有効利用して、見栄えの良い建物を建設する」。

ネットウィーバ2004は、同社のERPなどコンポーネントや他社製品を1台のサーバー上で動作させる「〝アダプター〟のような統合基盤技術」（菅沼ディレクター）に、従来個別に同社が出荷していたウェブアプリケーションサーバーやBI（ビジネスインテリジェンス）、EIP（企業情報ポータル）、統合ツールなどを組み込み、単一製品とした。以前のバージョンでは、別々のサーバーと異なる基盤技術が必要だった。これが原因で多くの顧客は購入を見送ったといわれる。それが簡単に言えば、すべての市販ソフトがネットウィーバ2004上で稼動できることになるのだ。

企業がSAPや他社製品を既存システムで運用する際、アプリケーション自体の3─5倍のコンサルティングコストを費やす。これは、企業のIT投資が先細るなかで、SAPの〝悩みの種〟であった。「こうした状況を解決するのがネットウィーバで、レガシー（旧式）システムの統合コストを大幅に削減できる」（菅沼ディレクター）と、その有用性を強調する。

もっとも、アプリケーションを統合して相互運用性を売り物にしているのは、SAPだけではない。マイクロソフトの「ビズトーク・サーバー」やオラクルが最近発表した「カスタマー・データ・ハブ」と呼ぶプログラムがそれに近い。だが、両社が自社製品の統合を主にしているのに対し、ネットウィーバ2004によるSAPの戦略は、他社製品も幅広く受け入れるという点で大きく異なる。

日本法人のSAPジャパンでは4月上旬、日本独自の「SAPネットウィーバ・パートナー・コンソーシアム」を立ち上げ、コンサルティング会社やシステムインテグレータ約70社と構築技術の共有化を図る体制を敷いた。ここに参加しない他のSAPパートナーに対しても、「ネットウィーバを定着させ、戦略の拡大を狙う。当社のソリューションを支えるのはパートナー」（菅沼ディレクター）だとして、パートナー網の裾野拡大に取り組む意向だ。大規模なシステム構築ができず、これまでSAPと協業できなかった中堅・中小のISV（独立系ソフト会社）やシステムインテグレータにとっては、ネットウィーバ2004上のアプリケーション開発などで協業のチャンスが生まれたといえる。 谷畑良胤●取材／文