高まるスパム、スパイウェア対策

　ウイルス対策の次は、スパイウェアとスパム（迷惑メール）対策──。

　成長が鈍化しつつある企業向け外部アタック対策製品市場で、スパイウェアとスパム対策が需要回復の起爆剤となりそうだ。

　情報セキュリティ対策製品・サービスは依然堅調に推移するが、売れる商材に変化が起きている。主役は、コンピュータウイルスをはじめとした外部アタックの対策製品から、企業内からの情報漏えいを防ぐ内部セキュリティ対策製品に移ってきた。個人情報漏えい事件の頻発、4月からの「個人情報保護法」完全施行に触発され、ユーザーがセキュリティ投資の優先順位を「情報漏えい対策」製品・サービスに切り替えているためだ。加えて、ウイルス対策をはじめとした外部からの攻撃を防ぐ製品の需要が一巡したことも影響している。

　セキュリティ大手、マカフィーの田中辰夫・取締役営業統括本部長は、「中小企業やSOHOは別だが、企業のウイルス対策は一段落している。クライアントとゲートウェイともにウイルス対策製品の導入企業は全体の90％を超えている」と見ている。さらに、「ウイルス対策の機能だけでは競合会社の間で差がないため、他社からの乗り換えを促すことは難しい」というのが成熟化している証拠だ。

　野村総合研究所では、日本国内の企業向けウイルス対策製品市場は、2009年には04年に比べて約90億円増の約440億円と予測するが、その伸び率は03年以前に比べ鈍化。06年にはコンシューマ向けが企業向けの市場規模を抜くと予想している。

　外部アタック対策製品を中心に販売するベンダーにとっては、ウイルス対策の次に売る商材を本格的に探さなければならない状況となった。その筆頭としてベンダーが本腰を入れているのが、スパイウェアとスパム対策製品だ。

　この両分野の製品に力を入れる理由としては、これまで外部アタック対策製品には縁遠かった「情報漏えい対策」が絡むからだ。

　スパイウェアは、ユーザーが気づかないうちにパソコンにインストールされ、クレジットカード番号などの個人情報を勝手に収集し、送信してしまう。ユーザーはこの一連の動作に気づかないことが多いため、「知らぬ間に情報が漏れている」危険性が高い。一方、スパムは不特定多数のユーザーに配布される迷惑メールを指し、フィッシング詐欺被害者の大半はこのスパムが原因になっている。いずれも、情報の漏えいが危惧される分野だ。

　マカフィーの田中取締役はスパイウェアについて、「まだスパイウェアの脅威に関しての認識は薄いが、情報漏えいを防ぐ製品として必ず注目を集める」と期待。そのうえで、「当社としては、スパイウェア対策製品だけで採算を取るのではなく、安価なオプション製品としてウイルス対策製品・サービスに加え、乗り換えユーザー獲得の足がかりにする」と戦略を話しており、ウイルス対策のASPサービスのオプションとしてスパイウェア対策を加えることを決めた。

　一方、スパム対策について、セキュリティアプライアンスの開発・販売を手がけるミラポイントジャパンの湯佐嘉人社長は、「スパム対策はネットワーク負荷の軽減や業務効率化を目的に導入する企業が大半だったが、フィッシング詐欺防止のために導入する企業が増えている」と、フィッシング対策機能を加えたスパム対策製品を2月中旬に投入する。

　昨今のセキュリティ市場を盛り上げている「情報漏えい対策」。これまで内部セキュリティ製品の機能の1つとして提供されていた分野だが、外部アタック対策製品でもこのキーワードが生きる商材が出てきたことで、外部アタック対策製品市場が息を吹き返しそうだ。(木村剛士●取材／文)