ISV製品の販売をコミット
今年度末までに計600本に増やす
日本アイ・ビー・エム(日本IBM、大歳卓麻社長)は、IBM製ミドルウェアに対応した業務アプリケーションを今年度(2005年12月期)末までに新しく100本追加して約600本に増やす。今年1月1日付で、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)などが開発した業務アプリケーションを実売に結びつける専門組織「ISV&ディベロッパー事業推進」を新設し、IBMミドルウェアのシェア拡大に努める。(安藤章司●取材/文)
■1月1日付で専任組織設置、パートナー開発のアプリ販売 日本IBMでは、IBM製のデータベースソフトやアプリケーションサーバー、グループウェアなどに対応した業務アプリケーションの拡充に努めている。業務アプリケーションを開発しているISVやシステムインテグレータに営業面や技術面で支援することで、IBMミドルウェア対応製品の種類を増やし、IBMのソフトウェアプラットフォームのシェア拡大を目指す。
IBMミドルウェアに対応した国内の業務アプリケーションは、昨年度(04年12月期)末時点で前年度比約2割増の500本に増え、今年度(05年12月期)はさらに100本追加して計600本に増やす計画だ。開発した業務アプリケーションは日本IBMの販売チャネルなどを通じて拡販し、同時に顧客企業の要望や市場動向などを開発元のISVへ還元して新製品の開発に役立てる。
今年1月1日付でISVやシステムインテグレータが開発した業務アプリケーションを日本IBMの販売チャネルに乗せて実売に結びつける専任組織、ISV&ディベロッパー事業推進を作った。昨年度までは、ISVなどがIBMミドルウェア対応の業務アプリケーションの開発を支援する組織はあったものの、販売までコミットした専任組織を立ち上げるのは今回が初めて。
専任組織では、昨年度約20人だった人員数を2倍に増やし、「パートナーが開発した業務アプリケーションの販売に深くコミットした」(日本IBMの古長由里子・ソフトウェア事業ISV&ディベロッパー事業推進ISV&DR営業開発営業開発部長)活動を展開する。
日本IBM社内の横の連携も強化する。パートナービジネスを主体にして中堅・中小企業向けにビジネスを展開するゼネラルビジネス事業部門の営業拠点に、今年度からソフトウェア事業部門の担当者を密着させる体制を整えた。ゼネラルビジネス事業の営業拠点は全国に約50か所ほどあるが、昨年度までは、受注が固まってプロジェクトが立ち上がるごとに、ゼネラルビジネス事業とソフトウェア事業の担当者が協力する形で対応していた。
今年度からは、プロジェクト単位での個別対応を改め、「ゼネラルビジネスの担当者とソフトウェアの担当者が、常にひと組になって営業する」(日本IBMの三浦浩・執行役員ソフトウェア事業担当)と、より密接な地域営業を展開する方針を示す。
全国約50か所のゼネラルビジネス事業の営業拠点で得られた顧客の声は、開発元であるISVやシステムインテグレータに素早く還元され、製品の改善に役立てる。「全国50か所の拠点が顧客の声や市場動向を読み取る“センサー”の役割を担う」(同)と、市場の変化を敏感に読み取り、より競争力のある業務アプリケーションの開発支援に乗り出す。
■「個別業種に強い」営業体制構築へ プロジェクトの準備段階から参画  | | パートナーバリューチェーン | | | 日本IBMのソフトウェア事業部門とIBM製のミドルウェアに対応した業務アプリケーションを開発するISVやシステムインテグレータが密接に連動して市場競争力を高めていくビジネスモデル。日本IBMの開発パートナーは国内で約2500社あり、これらパートナーが開発した商材を日本IBMの販売チャネルを活用して販売する。 国産ベンダーの多くが自社で業務アプリケーションを開発しているのに対し、日本IBMはミドルウェアに特化する戦略を展開している。国産ベンダーと取り引きが深いISV幹部は「メーカーと競合しないのは魅力」と、日本IBMの施策を評価する声もある。しかし、日本IBMがISV支援を本格化したのは2003年度からで、国産ベンダーに比べて日が浅い。開発パートナーとの信頼関係のさらなる強化は、これからが本番だと言える。 | | |
一方、ゼネラルビジネスとの連携が「エリア」別の展開であるのに対して、業種別の深耕にも取り組む。業務アプリケーションは、業種・業務に密接に関わっていることから、日本IBMのソフトウェア事業の担当者のなかで、個々の業種・業務に詳しい人材を育成することにより、「個別業種に強い」(同)営業体制の構築を急ぐ。
昨年度からソフトウェア事業のメンバーのうち、個別の業種・業務の教育を受けた「ソフトウェアITアーキテクト」の育成に着手した。ソフトウェアITアーキテクトの人員数は昨年9月時点で30人強に達し、今年1月末時点で60人に増えた。今年度末までには業種・業務のノウハウの知識をさらに増やしつつ、最大で100人まで育成する計画だ。ソフトウェア事業に従事する人員は全体で約700人いるが、このなかで業種・業務に特化した人材を増やすことで、パートナーや顧客企業とより核心に迫った商談ができるようにする。
商談の傾向を分析すると、顧客企業の情報システム投資に関するプロジェクトが立ち上がった時には、「すでにプラットフォームが固まっていることが多い」(三浦執行役員)として、プロジェクトが立ち上がる前から、顧客に突っ込んだ提案ができるノウハウが不可欠だと判断した。プロジェクトの準備段階から提案に加わることで、IBMプラットフォームの売り込みを狙う。
ISVやシステムインテグレータが開発した業務アプリケーションを、確実に販売していく体制を強化することで、IBMミドルウェアに対応した製品を増やしていく好循環「パートナーバリューチェーン」の拡充を目指す。さらにIBMのハードウェアプラットフォームの中だけにとどまらず、パートナーが開発した業務アプリケーションを武器に、他社のハードウェアプラットフォーム上にも、IBMミドルウェアのシェアを拡大させていくことで、ソフトウェア事業の拡大を狙う。
今後は、Javaを基調とするIBMミドルウェアを共通基盤として、ISVやシステムインテグレータが開発した業務アプリケーション同士の連携強化や部品の再利用などを推進することで、開発効率を高め、市場競争力を強化していく方針だ。