節目を迎えるITコーディネータ制度

　e─Japan戦略の推進を人材面で支えてきたITコーディネータ制度の改革が、急ピッチで進んでいる。2010年度までの目標を定めた政府のIT新改革戦略では、より広範囲な構造改革が示されており、これに応えるには人材の質・量ともに大幅な拡充が欠かせない。ITコーディネータ協会（関隆明会長＝NECソフト取締役相談役）が発足して丸5年になるのを節目に、次の5年を見据えた仕組みづくりがスタートする。

　昨年末時点でITコーディネータ取得者数は6460人。このうち情報処理技術者や公認会計士などプロとして通用する資格を保有している取得者は、2974人。専門知識を持つ多くの人材がITコーディネータの技能を身につけ、企業や自治体のIT改革を後押ししてきた。

　多様な能力を持つ人材がITと経営の橋渡し役として重要な役割を担ってきたわけだが、この多様性が逆にITコーディネータの質のばらつきを助長してきた面もある。なかでも情報処理技術者など情報系ITコーディネータと、公認会計士や税理士など経営系ITコーディネータとの溝は大きく、一部のユーザー企業・団体からは戸惑いの声もあがる。ITコーディネータ協会では、この4月から出身分野によって情報系や経営系などの専門領域を選択できるようにすることを検討しており、画一的な試験ではなく、それぞれの専門知識をより生かす仕組みへと改める。

　専門領域選択制の導入によって門戸を広げ、ITコーディネータ取得者数を増やすことを視野に入れると同時に、専門分野を生かすことで質の維持を図る。全国の中小企業数は、現在約470万社。それに対して取得者数は十分だとは言い難く、協会では全国の会計士や税理士、中小企業診断士などがITコーディネータの資格をより積極的に取得していくよう働きかける。ITベンダーやユーザー企業・団体の担当者にも資格取得の必要性を従来にも増して強く訴えていく。

　ITコーディネータは、活動実績などによってポイントを蓄積、それを評価の基準としているが、こうしたポイントをより分かりやすくすることで投資対効果を明確化することも検討している。ITコーディネータの資格取得には1人あたり50万円ほど必要で、大企業などが組織的に取得するとなると数千万─億円単位の費用がかかる。費用対効果を測定しやすくすることで投資促進に結びつける。

　IT新改革戦略では、2010年度までにIT利活用の成功事例を1000件以上公表することを数値目標の1つに掲げている。これを受けて経済産業省のITを活用した経営革新を推奨する「IT経営百選」や中小企業庁の「中小企業戦略的IT化促進事業」など個別の事業でも成功事例の創出に全力をあげる準備を進めている。中小企業庁の04年度、05年度の「IT活用型経営革新モデル事業」では、採択件数のうち50─60％と高い比率でITコーディネータが積極的に関与するなど、事例創出に重要な役割を果たしてきた。

　ITコーディネータ協会では、「側面から支援するのではなく、むしろ事業推進の主体となって取り組む」（関会長）と、IT新改革戦略の推進機関として機能することを目指す。ITコーディネータの知識を身につけた情報系、経営系の専門家、ユーザー企業・団体それぞれ立場の異なる人材による“トライアングルコラボレーション”をどれだけ多く実現できるかが、ITコーディネータ制度の改革のカギを握る。 安藤章司●取材／文