日本独自の付加価値戦略が奏功

　日本ヒューレット・パッカード（日本HP）のx86サーバー事業を把握するうえで、多くの人が誤解している点がある。それは、同社のx86サーバー事業が、低価格製品中心であるという誤解だ。

　日刊紙紙上でのPC製品の低価格戦略や、過激な同社幹部の発言から、日本HPのx86サーバー事業は低価格戦略ばかりにフォーカスが当たりがちだが、実際は、30万円以下の低価格製品の出荷比率は、わずか2割程度にとどまっている。

　同社では、x86サーバーであるProLiantシリーズを、30万円以下のボリュームライン、30万円以上のバリューラインに区分けしている。この言い方に準拠すれば、約8割がバリューラインの出荷ということになる。

　日本HPは、低価格領域での価格競争に苦しむ各社を尻目に、比較的、利益をあげやすい製品価格帯で事業を推進しているのがわかる。

　では、なぜ、これだけバリューラインの出荷比率が高いのか。

　ひとつは、同社独自の機能に対して、ユーザー企業が高い評価を与えていることが見逃せない。システムインサイトマネージャー（SIM）による統合管理環境をはじめ、独自技術の搭載とそれを活用したサービスは、大きな差別化策といえるもので、バリューラインの出荷増に大きく影響している。

　もうひとつは、日本法人独自の施策が、競合他社に比べて多いことだ。

　例えば、日本HPは、NTTファシリティーズとの提携によって、HP BladeSystemの直流電源ソリューションの提供や、データセンター施設構築の際の低消費電力設計提案などを行っている。日本のオフィス環境において、大量のサーバーやブレードを導入した際に、ビル内の電力供給が大きな障害となるケースが少なくない。同社は、こうした問題をNTTグループのオフィスインフラを担うNTTファシリティーズとの提携によって解決する方策を打ち出したわけだ。国内ユーザー企業の要求に対して、的を射ないわけがない。こうした提携は、国産サーバーベンダーもまだ踏み込んでいない分野だ。

　また、サーバーは国内の昭島事業所で生産しているため、注文仕様にあわせた短期間の納品を実現している。NECがサプライチェーンの強化によって実現している4日間の納期体制に比べると、まだ改善の余地はあるが、国内に生産拠点を置いているのは外資系では異例であり、結果として付加価値製品の比率を引き上げやすい。

　さらに、仮想化に対する戦略強化の一環として、日本AMD、ノベル、VMウェアの各日本法人とともに、仮想化技術の促進に対する協業を日本独自に発表。仮想化統合技術センターを天王洲本社内に設置し、x86サーバーにおける仮想化技術を採用したシステム導入を日本で加速させる考えだ。

　同社は、2006年のサーバー事業全体の目標として、初の国内シェアナンバーワン獲得を掲げている。IPFであるIntegrityサーバーでは、圧倒的ともいえるトップシェアを獲得しているだけに、国内第3位のx86サーバーのシェア拡大が、サーバー全体でのトップシェア獲得の必須条件となる。その際には、出荷比率が少ないボリュームラインを拡大するのが近道だ。

　だが、同社ではその道は選択しないという。むやみな低価格戦略も打ち出さない考えだ。今年末に、いまの製品出荷比率を維持したままトップシェアを獲得したのであれば、日本HPのナンバーワンは本物だといっていい。 大河原克行（ジャーナリスト）●取材／文