好天が荒天に転じる異常気象

　昨年の天候は、各地に集中豪雨が襲ったかと思えば九州・四国地方は1か月間に一滴の降雨もなく、北海道では竜巻が発生と、予測不能の荒天が人々を翻弄した。総じていえば好天でも、場所によって大きな被害が出るのが、ここ数年の傾向だ。IT・流通業界も「好天」「荒天」が入り交じる異常気象の気配がある。上半期は総じて好決算に沸いたが、通期では果たしてどうか。所々に雨雲の気配があるのが気になる。（佃 均（ジャーナリスト）●取材／文）

　今年のIT・流通業界は「晴れ／ときどき曇り」――本紙1月1日号の『業界天気図』の見出しだ。業態別に見ると、開発系SIerは「快晴」だが、「干ばつ警報も」の注意報付き、業務ソフトは「晴れ」、ネットワーク販社は「曇りところにより晴れ」、販売系SIerは「晴れ」などとなっている。干ばつ注意報を除くと「大雨」や「台風」という予報はないので、総じて「やや好転」の観測といっていい。

　観測は本紙記者が足で稼いだ取材をもとにトータルな印象を“天気図”として表現したものだが、本号では、その裏づけとなる数字を紹介したい。

　以下は、今年3月末に2006年度通期決算を迎える主要なIT企業の業績を中間決算と通期見通しの両面から解説する。調査対象はゲーム系やコンテンツ系などコンシューマ向けサービスを除く株式公開207社、非上場35社の計242社である。

■開発系SIerは好調そのもの

　まず2006年9月中間期の売上高は、個別・非連結が242社で3兆7416億1400万円、対前年度同期の伸び率は0.6％増だった。また、本業の利益を示す営業利益は29.8％増の2050億9700万円、当期利益は30.6％増の1551億3700万円という結果だった。

　なるほど、全体は増収増益、特に本業で稼いだ利益が大幅に増加しているので文字通り「快晴」といっていい。

　業態別にみたとき、最もウエートが高い開発系SIer（173社）は単独・非連結の売上高が3.2％増の2兆2689億円、営業利益が36.9％増の1411億3900万円、当期利益が38.4％増の1188億4100万円となっている。売上高の伸びが3％台なのに営業利益、当期利益が30％台というのは、不採算プロジェクトの収拾にめどがついたこと、プロジェクト管理やコスト管理の徹底で利益を確保する体制が整ったことを示す。

■販売系は堅調に推移

　販売系SIer（16社）は売上高が2.4％増の8223億9000万円、営業利益が34.0％増の2700億300万円、当期利益が37.1％増の158億5900万円となっており、全体では「晴れ」。ところが減収が9社、うち当期欠損（赤字）が3社、減益が6社、増収増益が4社と好不調が鮮明になっている。

　業務ソフト系（18社）は売上高が11.2％増の855億6900万円、営業利益が36.5％増の104億4800万円、当期利益が62.5％増の70億6500万円だった。販売系SIerと同様、全体は「晴れ」だが、減収が5社、減益が3社、欠損が6社と明暗が分かれている。個々にみれば好不調はあっても、業態として販売系はおおむね堅調といっていい。

　業績が悪化しているのは、ビジネス向けインターネットサービス系（20社）だ。連結、非連結を合算した売上高は19.3％増の1466億8600万円と2ケタ増だが、営業利益は3.2％減の100億9600万円、当期利益は75.8％減の43億800万円にとどまった。

　ネットワーク販社（8社）も低迷している。売上高は4.9％増の2543億2800万円だが、営業利益は34.2％減の84億700万円、当期利益は44.0％減の67億5500万円だ。

■干ばつ警報の意味

　開発系SIerの天気予報に付記された「干ばつ警報」は、個々の企業によって収益性に差がついていることを示す。例えば昨年9月中間決算の減収企業は173社のうち56社（32.4％）、営業利益が欠損だったのは35社（20.2％）、当期利益が赤字だったのは45社（26.0％）だ。

　本業で利益を出すことができなかったのが5社に1社、最終赤字が4社に1社もある。にもかかわらず、全体が「快晴」にみえるのは、別の言い方をすると二極分化が進んでいるといえる。当期営業利益率で見ると、さらに二極化の状況が明らかになる。中間決算の当期営業利益率は、連結決算の最高が56.7％、最低が－136.7％（その差193.4ポイント）、単独の最高は68.8％、最低は－114.8％（同183.6ポイント）だった。

　なかには売上高が30％以上伸びているのに、営業利益率がマイナスだった企業もある。受注が好調でも、不採算プロジェクトが発生すれば、いっぺんに利益は吹き飛んでしまう。「受注しなければよかった」ということになりかねない。

■上げ潮ムードは上期まで？

　もう一つ留意しなければならないのは、通期の業績見通しだ。全体を集計すると、売上高は5.4％増の9兆9495億4900万円、純利益は3.3％減の3011億8100万円という意外な結果が出た。通期欠損を予想している企業が単独と非連結で23社、連結で15社もある。中間決算がおしなべて良かったからといって、手放しで喜んでいられない。「上げ潮ムードも上期まで」というわけだ。

　ただし販社系SIerは売上高が4.9％増の1兆8547億5300万円、純利益が14.8％増の410億6700万円、業務ソフト系は売上高が11.0％増の1874億5200万円、純利益が5.6％増の171億5100万円と、ともに好調を維持すると予想している。

　目につくのは、開発系SIerの退潮。173社の通期見通しを集計すると、連結、非連結を合算した売上高は前年度比3.3％増の6兆9288億6000万円、純利益は1.6％減の2214億6600万円となる。上半期は「快晴」だが、通期でみると「小雨模様」。ということは、下期は「雨」となる可能性がある。実際の干ばつには恵の雨であっても、業績という意味では弱り目に祟り目になりかねない。

　背景には、株式公開企業を中心に、業績の下方修正を回避したい心理が働いたことがありそうだ。通期予想を「実現可能性」重視で低めに設定した堅実路線の現れであればいいのだが、一部観測筋は「下期に不採算案件の損失が表面化することを織り込んでいるのではないか」とみる。

　別の見方は、上期と下期の業績を平準化する動きだ。上期売上高3兆6113億600万円に対して、下期は3兆3175億5400万円と、逆転している。これまでIT業界の業績は上期4に対して下期6だったことを考えると、異常事態とさえいえる。各社は一様に「いくらでも仕事はあるが技術者がいない」というが、通期が増収減益では言い逃れでしかない。“利益なき繁忙”に終わってしまう懸念が浮上してきた。