国、業種ごとの対応が急務

　「顧客ごとにカスタマイズした製品・サービスが必要」──。情報セキュリティ大手のシマンテックとトレンドマイクロの両社トップは、今年の重点ポイントとして同じ言葉を発している。

　抽象的で至極当たり前な表現ではある。だが、セキュリティという分野で、大手2社が同じタイミングで同じ方針を打ち出している点には意味深いところがある。

　情報システムを構成する製品・サービスは、大きく分けてインフラ（基盤）とアプリケーション（応用）に分けることができる。インフラはネットワークやOSなどを指し、企業規模によって多少違いはあるものの、顧客の業種に左右されにくい。どの業種でも同じような構成でシステムをつくる。一方、アプリケーションはSFA（営業支援システム）やCRM（顧客管理）などで、顧客企業の業種や企業規模によってニーズの違いが大きい。

　セキュリティは、この2カテゴリのうちインフラに当てはまる。2社のトップが強化ポイントに置いた「顧客ごとにカスタマイズした製品・サービス」は、それほど重要ではない要素だったはずだ。　シマンテックの木村裕之社長は、業種ごとに分けた製品・サービスの必要性について、「これまでの脅威は業種や国ごとの違いはなかったが、今は違う。特定の地域や国、業種を狙った脅威が増えている。セキュリティベンダーとしてもその脅威にカスタマイズサービスで応える時期に入った」と説明。トレンドの大三川彰彦日本代表も同意見だ。

　具体的な取り組みとして、シマンテックは「業種別の提案力強化」（木村社長）をあげた。金融機関や官公庁などの政府機関、通信や電気およびガスなどの社会インフラ事業者をターゲットに、各業種のニーズに合わせた製品・サービス体系づくりに着手した。一部は専門部署を立ち上げて事業展開しているほか、警察や防衛省など政府機関向け事業については、専門の子会社「シマンテック総合研究所」を昨年11月にすでに設立。日本法人として初めての子会社で、政府機関向けの〝カスタマイズサービス〟を手厚くする。

　一方、トレンドマイクロも「国や地域、各顧客の業種ごとに特化したソリューションの提供」（エバ・チェン社長兼CEO）を標榜。まずは日本地域に特化した製品・サービスの提供を掲げ、「リージョナルトレンドラボ」と呼ぶ新組織を稼働させる。日本顧客への迅速なサービス提供が目的で、ウイルス対策の定義ファイルを日本独自で作成して配布する体制をつくる。また、業種ごとのカスタマイズサービスについては、これまで以上にSIerおよびNIerとの協業体制を強める。「セキュリティ技術の中枢をトレンドマイクロが提供し、その中核技術を使って、業種ごとのニーズをパートナーが解決できるようにする」（大三川日本代表）のが狙いだ。

　国や地域、業種に関係なく、共通の製品・サービスを提案すればよかったセキュリティ分野も、アプリケーションのようにニーズに合わせた個別提案が必要になってきたということだろう。セキュリティ製品・サービスを扱うSIerやNIerも各業種ごとの提案方法を考えなければいけない時代に入ったことを、2社の方針が物語っている。