大手SIerの大塚商会が仮想化ビジネスへ本格的に乗り出した。この4月から仮想化ビジネスの集中研修を実施。サーバーやパソコンの販売ではSIerのなかでもトップクラスのボリュームを誇っている。ここへ来て「サーバーの統合化という流れのなかで仮想化需要が急速に高まってきたことから、販売体制を強化する」と、同社では今後の展開を語る。(安藤章司●取材/文)
仮想化ビジネスに乗り出す
サーバー統合で火がつく
大塚商会は中堅・中小企業をメインに全国約70万社を超える顧客を持つ。特定の大口顧客に依存することなく、幅広い業種業態にアクセスできる販売網を持っていることが強みである。近年では中堅・大手企業に向けた売上高がじわじわと増えており、仮想化ビジネスはIT投資力の比較的強い年商50億円以上の顧客層で活発化している。
今回実施している仮想化ビジネスの集中研修は、仮想化に精通した“エキスパート”の育成を行うものである。
大手メーカーや有力SIerが仮想化の拡張性の高さや運用コストの安さを武器に営業攻勢を強めており、従来型のサーバーシステムに加えて新しい攻め方が必要という「現場の強い危機感があった」(中本明彦・テクニカルプロモーション部ハードプロモーショングループ課長)ことが背景にあるとみられる。
顧客の側もセキュリティや内部統制の強化などに対応するため中堅・大手企業を中心にサーバーの統合的な運用に強い関心を示している。一方、中堅・中小企業においても複数台のサーバーを運用している企業はサーバー統合や仮想化ビジネスを展開できる可能性があるということだ。

「営業現場ではこうした引き合いを十分に感じている」ことも集中研修への応募が多数あった要因のひとつと分析する。
数字でも仮想化需要は裏付けられている。仮想化機能を標準搭載した日本ヒューレット・パッカード(日本HP)のミッドレンジストレージ製品「HP StorageWorks Enterprise Virtual Array(以下EVA)」の今年度第1四半期(1-3月期)の販売金額は前年同期比で約2倍に増加。「仮想化システムは本格的な需要期に入った」(野尻英明・テクニカルプロモーション部ハードプロモーショングループスペシャリスト)との手応えを感じている。
EVAの納期を半分に短縮 仮想化対応のストレージ製品EVAの販売が軌道に乗ったのは、日本HPが昨年11月に販売を始めた「EVA4000スターターキット」の影響も少なからずある。これまでのEVAは、大塚商会が顧客に見積もりを出すつどHPに問い合わせる必要があり、時間がかかった。スターターキットでは、必要最小限の機器・ソフトをセットにし、希望小売価格を386万4000円(146GB×8本モデル)と設定し、明確にした。このキットを使えば見積もりを素早く顧客に提示できる。
価格が設定されているのといないのとで“どれほどの差があるのか”と思うが、実は大塚商会にとっては極めて重要な要素である。
特定の大口顧客に依存せず、全国津々浦々に散らばる多数の企業に情報システムを提供していくにはスピード感をもって提案していく必要がある。
スピードを保つ仕組みとして営業支援システムや受発注システムを独自に開発しており、このシステムを有効に活用するには事前に納期・価格などの情報が欠かせない。PCサーバーやパソコンの販売ではこの仕組みをフルに活用することでSIerとして全国トップクラスの販売量に達成している。
スピード発注、スピード納品によって商談から納品までのサイクルを短縮できる。もし価格や納期があいまいでは、見積もりを出す時間もかかり、システムを客先へ設置、稼働させる作業を担うSEのスケジュールも立てられない。
従来は日本HPへの価格の問い合わせから始まり、これをベースに顧客へ見積もりを出し、受注後は発注書を送り…といった手続きを踏んでいた。また、受注後の納品で1か月かかることも珍しくなかった。大塚商会は従来からオンラインで取引メーカーとのやり取りを行っているが、EVAスターターキットもこのシステム上に乗せ、日本HPへ発注が入り、納期を大塚商会側へ返してもらう仕組みをつくった。スターターキットが登場してからの納期は従来の約半分に相当する「約2週間で納品できるようになった」(中本課長)といい、このこともEVAの販売金額が前年同期比2倍になった要因のひとつだ。
アプリとの相乗効果目指す今後の課題はアプリケーション層において、どう仮想化のメリットを訴求していくのかにある。これまではサーバー統合による運用コストの低減、拡張性の高さを訴求し、顧客のニーズをつかんできた。だが、付加価値をより高めていくには、仮想化のメリットを最大限引き出す業務システムなどのアプリケーションソフトが求められている。
大塚商会では独自に開発した基幹業務システムや業種・業務に特化したシステムなど多数のアプリケーションを持つ。また、建設や製造業向けのCADシステムの納入実績も多く、グループ会社ではフロントエンド系のシステムも積極的に開発している。こうした豊富なアプリケーション群を仮想化システムの上でどう生かしていくのか。研究の余地は大きい。
日本HPは昨年8月からVMwareなどの仮想化技術に標準で対応した次世代ブレードサーバー「HP BladeSystem c─Class(以下c─Class)」の国内出荷を順次始めている。EVAとの相性もよく、“c─Class+EVA+仮想化+大塚商会の独自に開発したアプリケーション群”を組み合わせることで、従来にはない付加価値の高いシステムの提案が可能になる。
「今がまさにビジネスの転換期である。集中研修を通じて社内の意識改革、企画や開発、販売体制の強化を急ピッチで進める」ことで、今後数年間は仮想化関連システム全体で前年度比2倍の成長を堅持していく方針を示す。