ITコーディネータ協会（関隆明会長）など公的団体や企業で設立した任意団体「IT経営キャラバン隊」はこのほど、千葉県の松戸商工会議所で「IT経営のススメ」と題するセミナーを開催した。地元の中小企業関係者ら約50人が参加。千葉市の漬物卸会社がITを利用した経営改革に取り組んだ成功事例のほか、同社のIT導入を指導したITコーディネータ（ITC）がITを経営に生かす方法などを披露した。同隊はマイクロソフトの支援を受け、こうしたイベントを全国200か所で開き、約3万人の参加者を見込んでいる。

　事例を発表したのは、千葉市中央卸売場に本社を置く漬物卸の千代田漬物。年商5億5000万円で従業員20人という“老舗”の地元中小企業である。得意先の小売店がコンビニエンスストア増加の影響などで閉店し、粗利益率が目標に対し3期連続の未達成となった。この状況を打開すべく、得意先に頼らない「攻める営業展開」の必要性からIT化を全社で取り組んだ。

　千代田漬物は8年前、パソコンなどによってITを整備したが、IT化で逆に業務が煩雑になり、「社員は猛反発、当時の50人のうち15人が退職する倒産の危機に陥った」（柿澤利行社長）という苦い経験をしている。これと同じ轍を踏まないために、全社員の理解を得ながら経営と業務全体を改革することを決定した。

　そこで、千葉県と千葉市の支援制度「専門家派遣制度」を活用し、ITCの協力を得て、IT経営改革を開始。社内に全社横断のプロジェクトチーム「改革円陣隊（通称・改円隊）」を組織し、ITCの助言を受けながら、経営環境を「SWOT分析」で整理。複数ベンダーのパッケージを利用して、基幹システムなどを地元SIerに発注して再構築を実施した。

　これにより、「売上高がシステム変更前に比べ1億円増え、粗利益率が1％アップし、500万円に到達した」（柿澤社長）。また、「第三者にIT化を具体化する方法の指導を受け、不完全な部分をハッキリと理論化できた」と、ITCを活用した効果に言及。同社を指導したITCの鬼澤健八氏は「業務プロセス全体を一緒に見直し、業務手順のフローや担当者を明確化した。こうした洗い出しにより、仕様を変更せず、市販の業務パッケージに合わせることが確認できた」と、追加開発やカスタマイズをせず、最小限の投資で経営全体をITで改革できたと強調した。

　このほか、ITコーディネータ協会が提供している経営課題に優先順位をつけIT導入の優先度を調べるアセスメントを利用し、参加者が自社の状況を診断したほか、これを基に具体的な相談会を地元ITCが実施。これにより、IT経営に向けた取り組みのきっかけを中小企業に与えることができたようだ。