米ベンチャーが協業強化へ

　米国・シリコンバレーのベンチャー企業が中国やインドのベンダーと協業強化を図る動きが出始めている。中国やインドといえば、ベンダーがコスト削減を図るために生産シフトの目的でオフショア開発先として活用するケースが多かった。ところが最近は情勢が変わってきて、共同開発のアライアンスを模索している。

　とくに、スイッチなどネットワーク関連機器メーカーに、その傾向が強くなっている。今年10月に開催された、ワールドワイドのネットワーク関連機器メーカーが集うイベント「NetEvents」では大きな議題になったほど。同イベントでキーノートスピーカーを務めた米コンセントリーネットワークスのジェフ・プリンス会長兼CTOは、「シリコンバレーの奇跡およびアジア企業の盛衰」というテーマで講演し、そのなかで「これまで中国やインドに求められていたのは質より量。しかし、オフショア開発を委託していたわれわれ（米国のメーカー）のほうが質を求めるようになっている」と強調した。これは、米国企業が共同開発を行いたいと意識しているからだという。

　プリンス氏は、ネットワーク関連機器メーカーのファウンドリーネットワークスを創業したことで知られる。ファウンドリーが業界屈指のメーカーに成長して大所帯になったため、「最新技術を駆使した製品を市場に投入するため、さらに小回りのきいた研究開発を行っていきたい」との理由で2003年にコンセントリーネットワークスを設立したという経緯がある。ネットワーク業界で中核人物のひとりである同氏が「将来的には、中国やインドは“東のシリコンバレー”に位置づけられるだろう」と予測しているのだ。

　ここにきて、中国やインドが開発拠点として台頭してきたのは、エンジニアに対する修士課程の設置など国家をあげてICTに関する教育に力を入れているからだ。しかも、シリコンバレーで働く社員一人あたりの年収が平均で11万ドル（約1200万円）といわれているのに対し、中国やインドでは「さらに安い」（プリンス氏）。シリコンバレーのベンチャー企業が共同開発を進めない手はない。それだけではなく、「中国出身のエンジニアがシリコンバレーで起業するケースも出ている」とプリンス氏は指摘する。シリコンバレーの“お家芸”だった研究開発を中国やインドも巻き込んで進めることが、米国のICT発展につながるというわけだ。

　こうした状況のなか、大きなダメージを受ける可能性が高いのは、米国に次ぐ大きな市場といわれてきた日本とみられる。中国ICT市場動向の調査を手がけるBDA Chinaのダンカン・クラーク会長は、「中国市場は非常に大きい。しかし、大きいがゆえにICTが普及するのも遅い。一方、日本は地域格差があるといわれているものの、中国と比較すればICTの普及度は高い。そのため、当面は日本が第二の市場なのは間違いない」と言い切るものの、「中国とシリコンバレーの往来で、新しいイノベーションが生まれる可能性は高い」とも分析する。

　今後、中国やインドはワールドワイドに多大な影響を与えるというのが大方の見方だ。日本企業はワールドワイドで生き残るための術を真剣に考える時期にきている。