その他
「情報基盤強化税制」は有効か
2008/07/07 14:53
週刊BCN 2008年07月07日vol.1242掲載
投資喚起の材料にベンダーの反応は?
取り組む姿勢に温度差が
2年間延長され、内容も拡充された「情報基盤強化税制」。今年度からは対象製品が広がり、中小企業も使いやすくなった。ユーザーのIT投資を喚起する起爆剤としての役割が期待される優遇措置だが、ベンダーの反応はどうか。戦略的に有効活用するベンダーがある一方で、「知識として知っているだけ」のベンダーも。温度差があるのが実状だ。優遇税制を有効活用していけば、提案の差別化につながる可能性もある。業界各社の動きをウォッチしてみた。(木村剛士●取材/文)
■2年間延長・拡充された内容 中小企業はより使いやすく
「情報基盤強化税制」とは、同税制で定めた対象製品を一定価額以上購入すれば、7%の税額控除か、35%の特別償却が認められる制度。税額控除を選んだ場合、極端にいえばユーザー企業は7%引きで商品を購入するのと同じ効果が得られる“おいしい”仕組みだ。同税制を利用できる対象は幅広く、青色申告書を提出する法人か個人事業主で、業種は問わない。2006年4月から08年3月まで運用されていた制度で、今年4月から2年間延長され、内容も一部拡充された。
主な対象製品は、(1)OS、(2)サーバー(ハード)、(3)データベース(DB)、(4)DBの機能を利用する業務アプリケーション、(5)ファイアウォール(FW)で、OSとDB、FWは情報セキュリティの国際標準規格である「ISO/IEC15408」の認証取得が条件。取得価額の下限は、企業の資本金で分け、1億円以下で70万円、1億円超10億円以下で3000万円、10億円超で1億円に設定した。延長・拡充前は、資本金1億円以下の企業の取得価額は300万円だったが、「中小企業が利用するには敷居が高かった」(経済産業省情報処理振興課)ことから、その価額を大幅に引き下げたことが、拡充内容の大きなポイントだ。
過去、IT関連機器の税優遇措置としては、「特定情報通信機器の即時償却制度(通称:パソコン減税)」や「IT投資促進税制(通称:IT減税)」などがあったが、「今回の内容は対象製品を絞っていることもあり、非常に分かりやすく使いやすい」と経済産業省の長谷川徳慶・情報処理振興課係長は特徴を述べ、これまで以上の利用を期待している。
経産省では、延長期間の同税制によるIT投資押し上げ効果を約2400億円と推測。「税制による減収額の約1.4倍は見込める」(長谷川係長)とソロバンをはじく。過去2年間の効果が不透明で、一概にこの数値が現実的なのかは疑問だが、それでもユーザー、ベンダーともにメリットがあるのは確か。ユーザー企業にとっては、単純にIT投資費用を削減できる。一方、ITベンダーにとっては情報システムを提案する際に、ユーザーの背中を押す有効な武器として活用できる。自社ビジネスを拡大させようと、対象製品を製造するメーカーや、それを調達して販売するSIerにとって、利用価値は十分あるのだ。
そんななか、同税制を自社製品の拡販に結び付けようと戦略的に活用するベンダーが目を引く。DB最大手の日本オラクルだ。
■戦略活用の日本オラクル ライバル意識した面も
同社は、税制が創設された2年前にPR活動を早々と開始。税制の内容や手続き方法、自社製品の何が対象であるかを丁寧に説明したパンフレットやステッカー、ポスターを作成し、ユーザーとパートナーに向けて配布した。来客に出す飲み物の紙コップには、「Oracle DatabaseはISO15408を取得しており情報基盤強化税制の対象です」と明記するほどの熱の入れようで、「ここまで力を入れてPRしているのは、きっとオラクルだけだろう」と北野晴人・製品戦略統括本部担当ディレクターは説明する。また、「延長・拡充前の2年間で販売本数にどの程度結び付いたかは計測できない。ただ、販売パートナーからは、(マイクロソフトの)『SQL Server』と比較された際、オラクル製品が情報基盤強化税制の対象製品であることを説明して受注につながったとの声がある。問い合わせ件数も急増し、一定の成果は得られたと感じている」と胸を張る。
同社の戦略はこれだけにとどまらない。今年1月下旬には、大規模向けバージョン「Enterprise Edition」だけでなく、中小企業向けバージョン「Standard Edition」でも「ISO/IEC15408」を取得。「米本社は、大企業向けだけ取得すればよいと言っていたが、この税制を意識して中小規模向けでも取得したいと米本社に掛け合った」(北野ディレクター)。中小企業では「Standard Edition」を活用するケースが多いため、同エディションでも取得に動いていたわけだ。「日本の中小企業は(ライバル)のマイクロソフト製品を活用するケースが多い。それだけにオラクルは優遇税制をトリガーにして、マイクロソフトからシェアを奪おうと戦略的に活用している部分もある」と北野ディレクターは明かしている。全社的に同税制を有効活用しようと2年前から戦略的に動いていたわけだ。
■関心薄いベンダーも散見 提案材料として差別化に
ただ、オラクルのように対象製品メーカーがすべて力を入れているとは限らない。あるFWメーカー大手は、「税制自体は知っているが、それをパートナーやユーザーに向けて説明することはしていない」とそっけない態度を示す。また、ある中堅SIerの広報は、「各事業部門で個別に提案する際に使用している程度で、全社的に教育している状況ではない」と説明する。同税制に対し、ベンダー間で利用や認知には温度差があるようだ。
同税制を約1か月前から担当することになった経産省の豊田原・情報処理振興課課長補佐は、「これから本格的に認知度を高めるための活動を手がけていく」と説明する。政府のPR不足を非難するベンダーがいるが、「2年後以降にさらに延長される可能性はほぼないだろう」(経産省)という状況だけに、提案材料として有効活用できるのはこの2年間だけ。ベンダーの努力も必要だ。同税制をうまく活用できれば、有効な差別化戦略につながるはずだ。
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