北海道石狩市にデータセンター(DC)が集積しつつある。冷涼な気候や再生可能エネルギー電源の存在を背景に、地方へのDC分散の適地として選ばれている。一方、地方でのDC運営のノウハウには事業者によって差があり、共通する課題も多い。そこで、立地するDC事業者同士が連携組織を立ち上げ、課題解決に向けた議論や、自治体・インフラ会社との協力活動に乗り出した。事業者の連携は地方におけるDC集積の先進的なモデルになり得るか。現地を訪れ、その実態に迫った。
(取材・文/春菜孝明)
データセンターの集積が進む石狩市の「石狩湾新港地域」
(石狩市提供)
都市型DC事業者が進出 冷涼な空気、再エネ魅力
北海道西部に位置する石狩市は、札幌市の北側に隣接し、日本海に約80kmの海岸線を持つ。人口は約5万6000人。札幌の中心部から車で30分足らずで石狩市に入り、手前の居住地域を抜けると程なく「石狩湾新港地域」に着く。韓国や中国とのコンテナ航路をはじめとする国際貿易港であるとともに、エネルギー拠点として洋上風力発電やLNG(液化天然ガス)基地が並び、流通団地も立地するエリアだ。総面積は3000ヘクタールに及ぶ。
石狩市はこの一角約100ヘクタールを「REゾーン」として、DCの集積を図っている。このゾーンのおよそ半分にDCを誘致し、商業施設などと一体で開発を進める方針だ。REゾーンの「RE」は再生可能エネルギー(Renewable Energy)を意味する。
(表1)石狩市に立地しているデータセンター(開所順、開所予定を含む)
石狩市には、すでに開所した、または開所を予定しているDCが4カ所ある(表1参照)。直近では2026年3月、東急不動産
とFlower Communicationsをプロジェクトマネージャーとする特別目的会社による「石狩再エネデータセンター第1号」が竣工した。延床面積1万65平方メートル、受電容量15メガワット、1140ラックを備える。DC事業者に貸し出す「DC in DC」として6区画を整備。最初の入居者であるブロードバンドタワーは9月14日、「石狩新港サイト」として運用を始めた。
3月に竣工した「石狩再エネデータセンター第1号」。
太陽光発電所(手前)などの電力を活用する
(Flower Communications提供)
ブロードバンドタワーの李秀元・常務(左)と神坂慶介・執行
ブロードバンドタワーは顧客企業にDCのスペースや電力、ネットワーク接続環境を提供するビジネスモデルを展開し、首都圏に4カ所、大阪に1カ所の「都市型DC」を有している。地方進出の背景について、経営戦略・DC事業担当・ハイパースケールDC戦略担当の李秀元・常務取締役は、生成AIの普及によってサーバーの電力需要が急増する一方、賃貸ビルを利用する都市型DCでは、受電容量や使用電力に起因して自由度が限られると説明。まとまった電力を確保しつつ、市場からの要請が高まる再生可能エネルギーの電力も利用できる拠点として、石狩への進出を決めたという。DCには太陽光発電所が隣接し、自営線を引き込んで利用できる。さらに、データセンター技術本部の神坂慶介・執行役員は、外気を生かした冷却で、最新のGPUサーバーの収容にも対応していると話す。
さくらインターネット
前田章博 執行役員
11年にいち早く「石狩データセンター」を開所したさくらインターネットの前田章博・執行役員も「大阪に本社を置く当社が北海道に進出したのは、冷涼な空気をDCに取り込めるからだった」とする。さくらインターネットは、水力発電を中心とした再生可能エネルギーで電力を100%まかない、省エネと再エネの両面から環境負荷の軽減につなげている。
さくらインターネットの「石狩データセンター」
(同社提供)
事業者に話を聞くと、石狩へのDC進出が進んできた背景には、涼しい気候と再生可能エネルギーへの期待があったことが分かる。9月11日には、経済産業省から「GX戦略地域」の「データセンター集積型」に認定された。国から設備投資への支援をはじめとした優遇措置が受けられ、今後のさらなる誘致の弾みになる。
インフラ・資源共同化 運営効率高め競争力に
DCが集積しつつある中、石狩市企画政策部の加藤純・企業連携推進課長は「近接する施設同士だからこそ可能な連携を模索する動きが生まれた」と、連携組織「石狩データセンターコンソーシアム」設立の経緯を明かす。石狩市が事務局となり、立地事業者ら11社(表2参照)が参画して26年7月に発足した。DC事業者は日本データセンター協会(JDCC)といった業界団体や、DC分散を議論する北海道ニュートピアデータセンター研究会などで協力しているものの、立地地域を単位にした枠組みは珍しい。
(表2)石狩データセンターコンソーシアムの参加企業(順不同)
ブロードバンドタワーの李常務は、需要や利便などの経済合理性の面でDCが東京圏や大阪圏に集積してきたとして、地方分散は、より厳しい条件下での事業になると強調。電力などのインフラ整備の促進に向けて「自治体と民間企業の連携によって、より難しい課題に取り組める」と語る。石狩市に立地するDC事業者で最古参となるさくらインターネットの前田執行役員は、進出企業の拡大は競合が増える面よりも「ネットワーク効果のほうが大きい」と歓迎する。1社だけでは呼び込みにくい保守部品の供給会社や修理事業者も、複数のDCが集まれば進出しやすくなり、迅速な保守体制を含むエコシステムの形成につながるとみる。
石狩市
加藤 純 課長
コンソーシアムには電力、通信のインフラ事業者も参画している。インフラ事業者にとっては、石狩に立地するDC全体の将来的な需要が共有できれば、設備投資の見通しが立ちやすいなどのメリットがある。
活動の柱として(1)共同インフラ基盤の強化・確立に向けた事業(2)石狩市内に立地するDCの価値向上に向けた事業(3)石狩市との連携に向けた事業─の三つを掲げている。共同インフラ基盤については、隣接する複数のDCが変電所への接続線などを同じ経路に敷設する場合、各社が個別に整備するのではなく、コンソーシアムとして共同で進めるといったケースが考えられる。中長期的には、各社が電力・通信設備の設置空間を共有できる共同溝の構築も検討している。国や北海道への政策提言や要望活動も実施する方針だ。
物理的なインフラにとどまらず、各社が持つ計算資源やサービスの連携も考えられる。「計算資源をシェアリングすることで、お客様が便利になり、事業者としてもサービスの拡張が見込めるのであれば、互いに協力したほうがいいという議論はある」(石狩市の加藤課長)という。
DCの価値向上に向けては、事業者間連携を通じた、コスト競争力の高いDC運営を目指す。共同インフラのほかにも除雪、除草、清掃といった運営面の課題がある。点在する再生可能エネルギー電源を束ねてDCに供給する取り組みや、電力の共同購入も検討事項となる。
石狩市との連携では、技術者育成やDC間での人材交流、雇用の創出に向けて活動する。理系の大学・学部が集まる札幌市に近く、人材を確保しやすいという立地上の強みを生かし、地域内での人材育成と雇用の好循環を生み出したい考えだ。
地元企業やスタートアップによるDC活用も促す。地元の中小企業に対し、DCの事業概要を説明し、ビジネスでの活用方法を紹介する。市では地域課題の解決策をスタートアップ企業に提案してもらう取り組みを進めており、事業化した際の計算資源としてDCが活用できないか検討する。
地域社会との関係構築も重要な課題だ。さくらインターネットの前田執行役員は、DC事業者はこれまで、周辺地域や環境への影響を説明する機会が他産業に比べて少なかったと指摘する。石狩でDCの集積が進む中、説明責任が一段と大きくなるとして、「特に地域の方々との共生の部分は、コンソーシアムに期待したい」とする。
石狩市が重視するのは地域の持続可能性だ。DC誘致による税収は、人口減少に直面しても市民サービスを向上させるための自主財源となり、産業振興や子育て環境の充実などに還元される。加藤課長は、DCの雇用の受け皿としての側面も挙げ、「事業者、住民、地元企業にとってプラスになり、喜びにつながるような地域づくりにつなげたい」と展望した。
「IOWN」で距離の壁取り払う
首都圏から離れた石狩市のDCで課題に挙がるのが通信遅延だ。石狩市に進出するDC事業者は、光通信を活用した高速・低遅延ネットワークによって首都圏をはじめとする遠隔の都市部と接続し、距離の制約を補おうとしている。
ブロードバンドタワーは、NTT東日本の「All-Photonics Connect powered by IOWN」によって東京都内の基幹サイトと接続する。都心部のDCと同等のネットワーク品質と接続性を実現しているとし、同社のDC向け閉域網「dc.connect NeX」を活用して、石狩再エネデータセンター第1号に入居する他事業者にもサービスを提供するという。
NTTと京セラコミュニケーションシステムは、千葉県流山市の物流倉庫と「ゼロエミッション・データセンター石狩(ZED石狩)」を「IOWN APN」で結ぶ技術検証を行った。物流倉庫のカメラ映像をZED石狩でAI解析し、作業員の動線把握や異常検知のモニタリングができたほか、倉庫のロボット制御が可能か検証。衝突予測からロボットへの回避制御の送信までを1秒未満で実施した。両社は早期の商用展開を目指している。
NTT MEは26年1月、IOWNのAPN技術を採用したDC間ネットワークサービスを開始した。都内の主要DC間の接続からスタートしており、石狩市で整備するコンテナ型DCと首都圏などの主要DC群を直結する構想を掲げる。