ITC制度を中間総括　“スター”を多数輩出

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ITC制度を中間総括　“スター”を多数輩出

2008/09/08 14:53

週刊BCN 2008年09月08日vol.1250掲載

一方でプロの絶対数が不足

地域に密着して中小企業のIT化を支援

　中小企業のIT活用型経営を支援するITコーディネータ（ITC）制度が本格的にスタートして8年になる。全国のITCの資格取得者はおよそ6500人。地域に密着して中小企業経営を支援し、着実に実績を積み重ねてきた。それぞれの地域を象徴する“スター”的存在の有名ITCも多数輩出するものの、一方で、「本当に実績を上げているプロフェッショナルなITCの絶対数がまだ少ない」という声もある。ITC制度をより発展させるため各地で奮闘するITCを取材した。（本紙ITC取材班●取材／文）

■アクティブなITCが多い大阪

　ITC界の課題のひとつが、プロフェッショナルなITCの絶対数がまだ十分とは言えない点にある。多くは兼業で、「ITCを本職として活躍するケースが少ない」（関係者）というのだ。こうしたなかでも、ITCの仕事に重点を置き、中小企業のIT活用型経営支援で成功を収める事例は着実に増加中。ITベンダーや経営コンサルタントなどさまざまな職業を持ちながら、ITCのプロフェッショナルを目指す動きが活発化している。

　全国のなかでもITCとして積極的に活動する人材が多いといわれている大阪では、地域のITCで構成される有力な団体が組織され、かつSEや経営コンサルタントなどの立場からも中小企業のIT化を支援。さまざまな方面でITCが活躍している。

　その一例である有志が集まる有限責任事業組合「ITC－Labo.」の参加者は約130人。川端一輝ITCが中心になって立ち上げた。参加メンバーの動機には、「独立や自立を目指したい」「ITベンダーのSEとしてスキルアップを図りたい」など、さまざまな思惑がある。しかし、ユーザー企業に最適なITシステムを導入するという意識は同じ。「ITCという共通のベースに立ち、IT導入の促進を含めてユーザー企業の成長を支援する」（川端・ITC－Labo.理事長）と、運営方針を説明する。

■中小企業の業績改善が実績

　福井県の先織久恒ITC（コスモタウン社長）は、福井県情報化支援協会の創設に尽力した。現在、県内約20人のITCが参加している。国や県、商工会議所、民間企業の中小企業支援の仕組みを巧みに活用して、地元企業のIT活用型の経営革新に取り組んでいる。

　地方の中小企業では、ITCの経営コンサルティングの費用を自ら負担するのは実際問題として難しい。そこで公的機関や民間企業の経営者セミナーなどとITCの連携を強化。国や自治体の補助金、民間企業の支援を取り付けて中小企業の負担軽減に努める。

　だが、ITCの課題のひとつとして補助金やスポンサーへの依存が大きすぎるとの指摘があるのも事実。この点について先織ITCは、「補助金を上回る業績改善を達成すれば心配することはない」と自信たっぷりだ。自身が手がけたなかに、国から約650万円の補助金を得て、ある中小企業の経営革新を支援したケースがある。結果、この会社の利益は、経営革新前に比べて2年連続で3000万円ほど増えた。今後の成長も考えると、「単純計算で補助金分は税金として国や自治体に十分還元できる」と胸を張る。公的機関からみれば“投資以上の回収”が実現したわけで、この予算を次の中小企業支援に回すことができる勘定だ。

　つまり、実績が出せなければ、公的支援はもちろん、民間企業によるスポンサードも減り、ITCのビジネスも苦しくなる。「実績を目に見える形で出すことがITCの発展に欠かせない」と指摘する。

　実績づくりは各地で進んでいる。京都府を中心に中小企業のIT化に取り組む坂田岳史ITC（ダイコンサルティング社長）は、2001年に第一期生としてITC資格を取得した。最近の事例としては、京都市で精密ダイカスト金型・部品加工業を営む田中精工がある。外注先も使えるWeb型EDIシステムの企画・開発だ。

　このシステムは、下請け先も含めた高度な生産工程の管理を実現しようとしたもの。外注先も巻き込んだEDIシステムというコンセプトが高く評価され、経済産業省の07年度「中小企業戦略的IT促進事業」に採択。「中小企業IT経営力大賞・IT経営実践認定企業」の1社にも選ばれた。

　京都は従業員20人以下の中小製造業が多い、モノづくりの地域。「田中精工のように、下請け企業の生産・工程管理ができないと悩んでいる製造業は多いはず。それらの企業への販売も計画している」（坂田ITC）と、地元に適した新たな展開を話す。

■全国横断する組織つくる

　中部地区で製造業や運輸業などに強い水口和美ITC（ARU社長）は、ITCの課題として、全国横断的な活動がまだ十分ではないことをあげる。地域のITC関連の団体は全国で約180団体あるが、それぞれ独自に活動しているのが実情で、「横の連携が十分とれていない」（水口ITC）と指摘する。

　これまでの活動から地域の顔となる“スターITC”を輩出できた。だが、次代を担う40代、30代の若手ITCの育成体制はまだこれからだ。水口ITCは、地域のITCを組織化し、全国ネットでノウハウを共有し、中小企業経営を支援する「日本IT経営センター」の本格的な立ち上げに尽力している。地域のスターITCや有志ITCが集まり、ネットワークの拡充を進めている。

　ITC制度がより発展するためには、プロフェッショナルITCの育成や、補助金活用における投資対効果の最大化。ITCによる全国ネットワークの拡充など克服すべき課題は多い。ただIT経営力大賞の受賞歴など、ITCがこれまで積み上げてきた実績は高く評価すべきだ。中小企業の業績を改善し、IT投資の促進に努めるITC活動をIT業界としても、より強力に支えていく必要がありそうだ。