未開拓領域へ新旧販社と共同で参入
日本IBM(橋本孝之社長)は今年度(2009年12月期)から、同社が攻めきれていない「ホワイトスペース」と呼ぶ領域に対して、パートナーと共同で新たな拡販戦略を開始した。x86サーバー「System x」の専任部隊を新設したほか、特に国内で2ケタの伸びを示すブレードサーバーの販売や仮想化環境を提供できる技術・提案力をもつ販社を全国に養成する。将来的な「クラウドコンピューティング時代」に備え、同社の弱点である従業員1000人以下の中堅・中小企業の“陣地”を早急に獲得することを目指し、同領域で優勢の日本ヒューレット・パッカード(日本HP)などに真正面からの勝負を挑む。5万社のスペースでシェア獲得

日本IBMは昨年度まで、ゼネラル・ビジネス(GB)部隊にサーバー、ストレージ、ソフトウェアなどをカバーさせる横断的な体制を敷いていた。この施策により、「製品をクロス販売でき、特にストレージ販売を例年以上に伸ばせた」(諸富健二・理事システムx事業部長)という効果を得ることができた。ところが、「全部員がゼネラリスト化した」(同)ために、日本HPとの低価格競争や競合他社よりも迅速な導入・販売が求められる過酷な市場であるx86サーバー市場で苦戦を強いられていた。
このため、GB部隊からx86サーバーを販社と共同で拡販する専任部隊を切り離し、「パートナー営業部」を新設した。従来に比べて専任社員を2.5倍に増員。また、パートナーと共同で対象企業の絞り込みや売り込み方などを練る「事業開発」人員を充当した。
今年に入ってからは、同社の基本戦略や技術支援策などをパートナーに説明する「System x Vision説明会」を東京と大阪で開催し、約100人の参加を得た。日本IBMの旧オフコンディーラー網である「愛徳会」所属ベンダーや独立系ソフトベンダー(ISV)、新規販社などを招いたところ、「参加率が高く、当社への期待がうかがえた」(諸富理事)と評価しており、説明会のほかにもベンダー個々への「出前セミナー」や地方でのキャラバンを本格化させている。
同社が「ホワイトスペース」と呼ぶ領域に属する国内企業数は約5万社。このうち売上高ベースで同社が獲得できている市場は10%以下で、社数でいえば2000社程度にすぎず、日本HPやデルなどに比べ「インシェアで遅れをとっている」(諸富理事)。
ホワイトスペースに対して本格的な攻めを展開する前に、“地ならし”を行ってきた。それは価格戦略である。昨年度後半からは、ブレードサーバーを含めx86サーバーで日本HPが相次ぎ繰り出す「価格引き下げ」に対し、即座に応戦してきた。「国内で最も安いサーバー」であることを示し、「他社と案件でコンペ(競合)になっても、最低限価格(プライスリーダー)では負けない」体制を敷いた。
ただ、旧オフコンディーラーなどは技術的にもブレードサーバーの「売り方」を知らないケースが多く、従前通りラックマウントサーバーを主軸に据えるケースが散見された。そこで、同社SE(システム・エンジニア)が張り付いて行う「製品セミナー」などをパートナーに対して断続的に開き、ブレードサーバーなどで、目の前にある案件を具体的にどう獲得すべきかを支援している。
JCMの全国販社を引き込め
日本IBMのブレードサーバー販売台数は、昨年度第4四半期では前年同期比で45%も伸長したという。「当社のブレードサーバーは、ストレージやネットワークなどの要素を加味した他社製品より優れており、現在のユーザー企業が求めるコンソリデーション(システム統合)に最も向いている製品」(諸富理事)という。ただ、製品が評価されて導入が進む一方で、同社パートナー間でも「共食い」が始まっていることを懸念する。
同一のユーザー企業に対し、複数の同社パートナーがブレードサーバーを提案する状況にあり、“箱売り”体質のベンダーを「ソリューション販売」へと転換する必要性を感じているとしている。将来的にサービス型システムを利用できる環境をユーザー企業に提供するため、ブレードサーバーと仮想化環境などで「付加価値を提案」できるベンダーを育てることを狙う。諸富理事は「IBMのブレード製品は、圧倒的な製品力と価格競争力がある」としており、この数か月間で相次いで新製品を投入。まずは、同社が「JCM(日本メーカー)」と呼称する富士通や日立製作所、NECなどのブレードサーバーが入りそうな領域を徹底的に攻め、先取りする方針だ。
日本IBMの販社に限らず、JCMや日本HP、デルなどのブレードサーバー販社は、自社で「担ぐ」製品の販売に「手詰まり感を抱いている」(諸富理事)とみる。付加価値を提案相手のユーザー企業にうまく説明できずにいるベンダーが多いと判断。そういう全国の有力販社を日本IBM陣営に引き込もうというのだ。
同社では次なる戦略も見据えている。「サーバーコンソリデーションが一巡したら、次はクライアントコンソリデーションの需要が出てくる」(諸富理事)と予測する。同社では昨年度後半から「クラウドコンピューティング」事業を本格始動させた。当面は自社内で直販する形式で大手企業を中心にクラウド環境を提供する。将来的には同社ブレードサーバーによって「柔軟なシステム」を構築したユーザー企業数が多いほど、同社クラウド基盤上などで提供するサービスの「ストック・ビジネス」を安定的に得ることができるわけだ。新しく編成されたx86サーバー部隊が“泥臭く”展開する販社戦略は、日本IBMがこの先10年程度を見据え持続的に成長するうえで重要な礎となるのだ。