今年10月中旬から年末にかけては、文部科学省が提唱する「スクール・ニューディール構想」に基づいて計上された2009年度補正予算の獲得に向けた攻防がピークを迎えるはずだった。ところが10月、政権が民主党に交代し、情勢が一変。行政刷新会議の「事業仕分け」で、2010年度に盛り込まれていた文教予算が相次ぎ「廃止」や「見送り」に追いやられ、一時は補正予算の執行に影響が出ることも懸念された。しかし販売の現場では、当初期待したほどの需要は生んでいないものの、関連する予算の獲得が進み、例年以上に文教市場向けの売上高が伸びているようだ。

学校ICTを使うのと使わないのとはでは、学力に差が出る(写真は本文とは関係ありません)
電子黒板がやり玉に
政府が鳴り物入りで開始した行政刷新会議の「事業仕分け」は、教育機関向けのICT(情報通信技術)産業に大きな影響を与えた。「事業仕分け」のうち、来年度の「ICT利活用型教育の確立支援事業」は予算計上が見送り。さらに、09年度の補正予算で整備するICTインフラの利活用を進めるための研究費などが含まれている「学校ICT活用推進事業」に「廃止」の烙印を押した。
「事業仕分け」の判断は、最終決定ではない。だが、これら「廃止」や「見送り」が示された予算を復活できるかといえば、相当の困難さが伴う。文部科学省が「スクール・ニューディール構想」を提唱し、同補正予算で総額4000億円以上の巨費を投じ、未整備分だった教育機関のICT化やICT教育を急速に進めようと考えた前政府の方針は、少しずつ揺らぎ始めている。
文教市場向けのICTビジネスに悪影響を及ぼす分かりやすい例としては、電子黒板がある。「事業仕分け人」は、「電子黒板の効果検証がなされていない」「(電子黒板を使いこなせず)“倉庫入り”が多くなると思う」など、電子黒板の導入効果が不透明と批判して「廃止」に追い込んだ。
電子黒板の販売拡大や関連するデジタル教材とシステムの拡販が期待されていただけに、業界に与える影響は小さくない。NECの文教市場の担当者はこう話す。「まだ最終結論が出ていない時期に、どうなるかについて言及するのは差し控えたい。ただ、状況が悪くなることは間違いないだろう」。同じくNEC系列の販社で文教向けの担当者は「先行きに不安感が漂っている」と、期待値よりも目標を下げざるを得ない状況という。
“特需”に沸くはずだった文教向けICT市場については、おおむねこのような見解が支配的になっている。だが、学校向けICT導入が得意なメーカーや販社の多くは異なる見方をしているようだ。電子黒板がやり玉に上がるのは「想定内だった」という声が大勢を占め、「影響は軽微」というのだ。
文教市場で大きなシェアをもつ内田洋行は、今年度(10年7月期)第1四半期決算で、「政権交代により理科関連とICT関連の予算執行が約2か月程度遅れている」と指摘している。
実際、文科省の09年補正予算で計上されたなかで、10月16日に締め切った「第一次募集分」(=教育委員会から上がった計画)は全額年度内執行が確定したが、「第二次募集分」のうち電子黒板分は、現在も棚上げされている。文科省の生涯学習政策局は「(第二次募集分に関しては)現在精査を進め、電子黒板の整備費を除き年度内に執行される見通し」と、二次分に関しては年度を越えた執行もあり得るとしており、一部の製品を除けば予算通り執行されることは間違いないのだ。
こうした状況下で、内田洋行は第1四半期の「教育関連事業」で、国の補正予算や学習指導要領改訂に伴う機器販売で前年同期に比べ6.4%の売上高増加となった。電子黒板は一部棚上げされているが、文教市場の“特需”自体はあるようだ。
PC数千台規模の導入も
また、某大手販社は、今回の補正予算で獲得目標としてきた金額の6割に当たる受注を確定した。そのなかには、パソコン数千台規模の導入が決定した案件もある。未整備学校への導入と旧式パソコンのリプレースに成功したようだ。同社担当者は「目標には届かなかったが、民需が苦しいなかで、文教向けは貴重な収入源になっている」と、残る第二次募集分の獲得を目指して年末から年始にかけて攻勢をかける。
文教市場の盛り上がりにつれ、新しい勢力が台頭する兆しが見え始めた。私立学校への導入実績をもつネットマークスは、「公立学校には導入実績がほとんどない」(広報関係者)ものの、文教関連の拡大に向け、これまでのノウハウを生かして公立学校への提案を増やす方針だ。
同社が得意としているのは、キャンパス内のワイヤレス環境の整備や、ID管理によって学生が自宅から持ち込んだパソコンでもアクセスすることが可能なインフラの構築などだ。「私立学校では、他校との差異化を図るためにICTを強化している」状況であり、公立学校でも同様の動きが起きるとみて、虎視眈々と案件獲得の機会をうかがっている。(今回の「特別企画」は週刊BCN編集部の谷畑良胤、佐相彰彦、木村剛士が担当)