キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS、武井尭社長)は、データセンター(DC)を使ったITサービスビジネスを本格的に拡大させる。直近の売上高に占めるサービスビジネスの構成比は7~8%だが、これを向こう3年で30%程度に高める。自社グループ内でDCリソースが不足していることから、独自のDC新設を視野に入れる。国内外のユーザーに向けたクラウドコンピューティングやアウトソーシングなどの受注を拡大。サービスビジネスの売り上げを伸ばす方針だ。
DC新設でクラウド視野に
キヤノンITSは、DCを活用した中堅企業向けITアウトソーシングや、キヤノン製品ユーザー向けのネットサービス、グローバル進出企業向けのクラウドサービスなどを大幅に拡充する。大規模なDC設備を保有してこなかったキヤノンITSだが、大型のソフト開発案件の減少傾向が長期化し、コンピュータリソースを所有する方式から、サービスとして利用する形態への流れが加速していることから、DCをベースとしたサービスビジネスを本格的に拡大させる。当面は外部からDC設備を借り、将来的には自社でDCを開設することを視野に入れる。親会社のキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)では、すでにクラウド/SaaSアプリケーションの基盤ミドルウェアの設計検討に入っており、DC設備と合わせて独自のサービスビジネスの立ち上げを狙う。
ライバルの大手SIerは、野村総合研究所が約200億円を投じて2012年度中の新DC竣工を計画。富士通エフ・アイ・ピーも約140億円の予算で2010年11月、横浜市で新DCを開設する。クラウド/SaaSなどのITサービス利用型が拡大するに伴い、「このまま手をこまぬいていては、いずれ当社がメインとしてきたシステム構築やソフト開発も、サービスビジネスを強化するライバルSIerに取られる」(キヤノンITSの武井尭社長)と危惧する。キヤノンITSでは、ライバルに対抗しうる高度に冗長化された設備水準Tier4のDC建設を想定していることから、実行に移せばミドルウェアやハード設備を含めた総投資額は100億円を超える見込み。
キヤノンMJは、有力クラウドサービスのSalesforceの販売でトップクラスの実績を誇る。しかし、ライセンスの売買差益だけでは収益力が限られているのも事実。そこで、ユーザー認証やID管理、課金、文書管理、印刷といったクラウド/SaaS向けのミドルウェア基盤の独自開発を検討する。キヤノンITSなどグループ主要SIerと連携し、自らもクラウドサービスに参入することで付加価値を向上。Salesforceなど既存サービスとの相乗効果も高める。
キヤノングループ全体でみれば、例えば、キヤノン製デジカメユーザー向けに写真の保管サービスなども視野に入れる。「グループ会社で重複投資する必要はない」(同)と、DC機能をキヤノンITSに集約する可能性を念頭に置く。また、グローバル企業の海外拠点向けのITサービス提供にも力を入れる。中国にはキヤノンITSの子会社が進出済み。従来はオフショア開発拠点としての位置づけだったが、今は中国市場を開拓する営業拠点としても機能させ、日系企業などのIT需要の取り込みに力を入れる。
グローバル展開する大手製造業では、クラウド設備を自社で所有し、ここに基幹業務システムを集約。世界中のグループ会社や拠点で利用できる仕組みに移行する動きがある。キヤノン自身も世界展開する企業の1社であり、グループのITサービス事業で中核的存在であるキヤノンITSが、クラウドで先行することはキヤノングループの競争力を高める意味合いからもメリットがある。キヤノンITSはクラウドなどDCをベースとするサービスノウハウを集積し、横展開していくことで、売上高に占めるサービスビジネスの構成比を向こう3年で直近の3倍あまりの30%程度に拡大。収益力の増強を目指す。(安藤章司)
【関連記事】DC運営でノウハウ蓄積へ
業績急変で投資前倒しに
100億円を超える規模の先行投資が必要といわれる大型データセンター(DC)の建設を視野に入れるキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)。その背景には足下の業績の急減速がある。親会社のキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の1~9月期累計の連結売上高は、前年同期比19%減の4967億円、営業利益は同77%減の41億円と、リーマン・ショック以降の景気減退の直撃を受けた。
キヤノンMJの主要事業のうち、複合機をはじめとするドキュメントビジネスや産業機器の販売低迷はある程度予想できていたため、この分の落ち込みをITソリューションで伸ばす基本戦略を立てていた。ところが、このITソリューションもフタを開けてみたら同16%減と、ドキュメントビジネスとほぼ同率で減少する厳しい状況である。
キヤノンITS自身の課題もある。同社は旧住友金属システム開発や旧アルゴ21などが経営統合して現在に至る。合併の影響もあって「販売管理費の構成比が20%弱と業界平均の約15%より高い水準」(キヤノンITSの武井尭社長)だと指摘。さらに、母体となった両社ともにソフト開発を得意とするSIerであり、親会社のキヤノンMJは販売を主体とするビジネスモデル。先行する大手SIerに比べてDC運用のノウハウが十分に蓄積された状態であるとはいえない。
だからこそ敢えてDCビジネスに巨額の投資を行い、「新たに立ち上げるサービスビジネスに販管費にかかる人員を重点的に振り分ける」(同)ことで、高止まりしている販管費率を削減。自らDCを運営することでクラウド/SaaSなどサービスビジネスのノウハウを身につけていく考えを示す。キヤノンMJは、ITソリューション事業を年商3000億円規模に拡大する「ITS3000」計画を掲げる。伸びる目論見が大きく外れたことが、結果的にキヤノンMJを含めた経営判断のスピードをより早めたようだ。(安藤章司)