NPO法人日本情報技術取引所(JIET、二上秀昭理事長=日本ブレーン会長)は、業界内だけでなくユーザー企業との連携を深める新施策を打ち出すほか、組織・活動全般の改革に乗り出す。 新施策ではユーザー企業の登録制度を開始。従来のように同業他社から案件を提供してもらうだけでなく、企業から直接受注して、JIET会員約1200社内で最適なベンダーがソフト開発を行う。二上理事長は「ダイレクトに受注するため、廉価で高品質なIT環境・ソフト開発を提供することが可能になる。いわゆる“地産地消”を進め、地域活性化に貢献する」と意図を説明する。さらにJIETでは、複数ITベンダーで案件を受注する「営業会社」を設立することも視野に入れるなどの施策により、IT業界内での生き残りを模索していく。
「元請け」の「営業会社」設立視野に
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| 二上秀昭 理事長 |
新施策では、ユーザー企業が無料で登録できる「CLUB JIET」を開設。ここに登録したユーザー企業は、地元の身近なITベンダーを簡単に探すことができるという制度だ。JIETが北海道から九州・沖縄まで全国ネットで開催する「営業商談会」に参加し、自社が課題とする案件を持ち込んでITベンダーと直接話しながら、システムやソフト開発などの発注先を選ぶことが可能となる。また、JIET会員のスキル情報データベース「JIET情報システム」を閲覧して、要望するスキルの人材情報を得ることができる。
JIETがこれまで開催してきた「営業商談会」は、案件を発注したユーザー企業の「元請け」である同業他社の大手・中堅ITベンダーが切り出す「下請け案件」の取引が主流。こうした案件を直接JIET会員が受けるようにするのが「CLUB JIET」の役割だ。この方式だと、「元請け」が受け取る中間マージンが不要で、コスト削減や日程の短縮を図ることができる。
二上理事長は「全国展開するJIETの強みを生かし、ITを利活用する各地域の企業と、その地域で活動するJIET会員のITベンダーとの連携を強化し、経済産業省が推進する地産地消を実現できる」と語る。現在、ダイレクト・メールを郵送するなどで「CLUB JIET」への登録を促している。今後1年間では、300社以上の登録を目指す。
また、JIETでは、会員のITベンダーが団結して営業展開し、複数のITベンダーの集合体で案件を「元請け」するため、会員ベンダーから資本金を募り「営業会社」のような組織を設立することを検討している。二上理事長は「リーマン・ショック以降、一時的に案件は減ったが、それがここにきて元に戻り始めている。スキルの高い複数ベンダー同士で一致結束して案件を獲得し、会員全体の収益を高めたい」と、中堅・大手のITベンダーに集中する市場構造を根本から見直す構えで、今後の行方に注目が集まりそうだ。
ソフト開発企業の「今」
JIETが会員ベンダーを初調査 日本情報技術取引所(JIET)は2009年11月、ソフト開発業界の実態を探るため、同団体の会員企業であるソフト開発企業約1200社に「景気動向アンケート調査」を実施した。JIETにとって、会員企業に対する調査は初の試みで、「身近な景気動向」を会員企業に伝えることを目的としている。今後は、半年ごとに定期実施する計画だ。
「週刊BCN」編集部では、その調査結果資料をJIETから入手した。その内容は、本紙次号(1月25日号、Vol.1318)で詳報するが、今号でその一部を紹介する。
調査は、2009年11月5日~30日の期間で約1200社の会員企業に対して行われたもの。144社の回答を得た。JIETの会員企業は、中小のソフト開発企業が多く、ユーザー企業から元請けとしてソフト開発案件を受注するほか、元請けITベンダーからの下請けも手がける。有効回答を得た144社のうち、従業員数30人以下が45%、31人以上100人以下が40%を占めている。大手のソフト開発企業を対象とする調査レポートが一般的だが、JIETのレポートは中小ソフトハウスに照準を合わせた内容であるため、希少価値がある。
調査結果の一部を紹介する。図には、今年度上期(09年4月~9月)の期間で前年度下期(08年10月~09年3月)に比べて商談量の増減を尋ねた結果を示した。
71%もの会員企業が「非常に不足」と回答している。「少し不足」の回答を加えると、95.1%にも達しており、不況の影響を大きく受けた格好だ。
一方で、会員企業の従業員数は「少し減っている」「減っている」との回答を合わせると、全体の59%に達している。案件数減少を影響を受けて売り上げが下がり、利益を捻出するためのコスト削減で、人件費のカットに動いたソフト開発企業が多いと推測できる。