ワープロソフト「一太郎」で知られるジャストシステム創業者・浮川和宣氏が立ち上げた新会社の概要が明らかになってきた。ジャストシステムの経営から離れて約3か月。研究開発型のMetaMoJi(メタモジ)の社長という形で、夫人の初子氏(専務)とともに再起を図る。MetaMoJiで開発した技術をベースに事業会社を立ち上げ、同社が一部出資する。5年後には1~2社のIPO(新規株式公開)を目指す。
社長に浮川和宣氏、専務に初子氏を据えるMetaMoJiの“ツートップ”の経営体制は、30年前のジャストシステムの創業時と同じだ。社名には、「文字(モジ)をベースに築かれてきた人々の思考やコミュニケーションを進化(メタ)させる」との意味を込めた。メタデータやオントロジー技術を駆使し、コンピュータによる次世代の言語処理の確立を目指すものとみられる。
日本語ワープロソフト「一太郎」と日本語変換ソフト「ATOK」に代表されるように、浮川夫妻と日本語との関わりは深い。パソコンの日本語キーボードには、「スペースキー」の両側に「無変換」と「変換」キーがあるが、実際の日本語変換は「スペースキー」による変換が主流。この流れをつくったのは、ほかならぬ浮川夫妻の「スペースキー変換の発明」(浮川和宣社長)によるところが大きい。MetaMoJiでは、ジャストシステムから譲り受けたXMLサーバーアプリケーションの開発環境など、いくつかの技術や特許をもとに、「新たな技術開発に挑む」(初子専務)。
振り返って、ジャストシステム時代は、XMLアプリケーション基盤の「xfy」の海外展開でつまずき、2009年3月期までの4年間で累計100億円近い純損失を出した。技術にはとことんこだわりをもつ両氏だが、それゆえに顧客や市場のニーズを掴みきれず、ビジネスの足を引っ張ったとの指摘もある。
過去の失敗に区切りをつけ、60歳で再スタートを切る浮川社長。「これまでの総括にはまだ時期が早い」と、言葉に悔しさが滲む。だが、研究開発とビジネスを分けるMetaMoJiの経営方針は、自らの強みを生かす仕掛けでもあり、事業会社を担う若手の育成にもつながる。国際競争力に乏しい日本のソフト産業だけに、「スペースキー変換」を超える“大型発明”と、事業会社によるグローバルなビジネス立ち上げに期待が高まる。(安藤章司)

浮川和宣社長(右)と浮川初子専務