地方発の意気盛んなSIerを取材することができた。滋賀県のキステムと京都府のスリーエースだ。キステムは中国進出に積極的で、すでに根を下ろしつつある。スリーエースは、保育士の人材派遣業を運営して保育園のニーズをつかみ、それをITビジネスに生かすというユニークな方法で市場を開拓している。独自の経営手法でビジネスチャンスを掴もうとしているのだ。
事例1:キステム
滋賀から世界へ、中国事業に意欲
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キステム 井門一美社長 |
滋賀県で創業し、40周年を迎えた老舗SIerのキステム。同社の事業は、四本の柱で構築されている。
(1)システムの企画・設計・開発(2)クラウド・サービス(3)運用支援サービス(4)情報機器・ネットワーク機器の販売──である。独自の商材として、コンテンツ・マネジメント・システム(CMS)や教育機関向けサービス、水中顕微鏡システムを展開している。
CMSの「UD Face(ユーディーフェイス)」は、その一つ。井門一美社長は、「色覚障がい者でも見やすいホームページを提供できる」と説明する。シミュレート機能を使えば、色覚障がい者の見えているPC画面を即時変換し、見にくい場所を確認できる。シミュレートによる確認で問題のあった画像は、再度シミュレートを実施し、自動で色調整する。
売り上げベースでいえば、同社にとって福祉向け事業は大きなウエートを占めるものではないという。ただ、九州や北海道からも引き合いがあり、NECの販売店を中心にパートナー企業網の整備を進めているところだ。事業としても成長させようと動き始めた。
井門社長は、今後開拓していきたい分野として、環境事業を挙げる。子会社の生物流体力学研究所が開発・販売している水中顕微鏡は、水中の微生物をリアルタイムで直接観察できる優れモノ。出力された映像を外部VTRで録画することも可能だ。国内外問わず、研究機関から貸し出しの要望が寄せられている。井門社長は、「滋賀県だからこそ、環境に深い理解がある」と話す。社屋のすぐ近くに琵琶湖を望む滋賀県のSIerらしいサービスだ。
同社が国内に構える拠点は、大津、彦根、大阪、京都、東京に所在する。これに、近年成長が著しい中国が加わる。中国では携帯電話のコンテンツを提供している。対象は、日本文化や経済に興味をもつ中国人で、日本のコミックや経済情報を配信している。そのほか、中国発信の日本人向け観光サイトの立ち上げなどに関わっている。これらコンテンツの配信やサイトの立ち上げなどを担うのは、湖南省に拠点を置く同社100%出資の子会社、湖南立門子信息系統有限公司だ。
中国進出は、中国最大の通信事業者である中国移動通信との提携を成し遂げたからこそできたことだった。たとえ大企業であっても、中国で事業を展開して成功に導くのは難しい。その文化風土に馴染むのに非常に苦労するからだ。
その点、同社は幸運にも中国人に対する接し方を心得ていた。それは、滋賀県と湖南省が友好提携を結んでから約30年、という歴史の積み重ねがあってこそ。同社は、湖南省から来日した技術者の研修を実施していたことがあり、それが中国進出の足掛かりとなった。
井門社長は、湖南省の食文化に大きな関心を寄せている。日本料理を湖南省風にアレンジして提供する構想があるという。井門社長の構想は膨らむばかりだ。
事例2:スリーエース
異分野の人材派遣とITを両立
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スリーエース 井上太市郎社長 |
京都市下京区、閑静な住宅街に社屋を構えるスリーエースは、ソフトウェア開発と人材派遣の二つをメインの事業に据えるユニークな企業だ。
主力は「iPhone」向けアプリケーションと顧客管理システム。モバイルソリューションの盛り上がりを受け、「iPhone」には大きな期待を寄せている。
システム開発という面では、それほど目立った特徴があるわけではない。同社の際立つ特徴は、IT分野以外の人材派遣業を兼ねているところにある。市場開拓における手法が、他社とは一線を画するのだ。
同社の従業員は、71名が正社員で、63名が契約社員。ほぼ半々の割合だ。契約社員には、簿記の資格者や保育士など、IT企業らしからぬ人材が数多く在籍し、例えば、保育園に保育士を派遣している。同社では、保育園の内情を知ることから新事業を開始する。保育士は、保育業務をこなしつつ、保育園におけるニーズを拾い、同社にフィードバック。さまざまなニーズを吸い上げた同社は、「そこにITを持ち込む」(井上太市郎社長)わけである。
保育士を抱えるのには、もちろん理由がある。「少子化の影響で他社の参入が少ない」。高齢化社会の到来によって福祉サービスに競合が群がるなか、あえて保育に注目するという逆転の発想だ。
「世のため人のため」を掲げる同社。社会に貢献しつつ、収益をあげられる、一挙両得のビジネスである。