NECが2010年4月1日付で社長交代すると発表した。同時に、2010年度(11年3月期)から進める中期経営計画を打ち出しており、12年度までに売上高4兆円、営業利益2000億円、最終利益1000億円を目指す。社長交代の決断は、中期計画を何としてでも達成するためという。経営陣の若返りとグローバル化の推進に適した人材として、取締役執行役員常務の遠藤信博氏をトップに据えた。
2月25日、NECは都内某所で記者会見を開催した。当初は、中期経営計画についての会見の予定だったが、急きょ「社長交代」という内容が追加されたという経緯がある。
会見の冒頭、今回の社長交代について説明。現社長の矢野氏が壇上で、「来年度からの中期経営計画を策定したのだが、その目標を達成するためには経営陣の“若返り”が必要と判断した」と話した。そこで、56歳という若さの遠藤信博氏を社長に抜擢したという。遠藤氏への打診は2月中旬に行われたようだ。矢野氏から社長への就任の件を告げられたとき、遠藤氏は「まさに青天の霹靂。あまりの重責で、即答しかねた」そうだ。これに対して、矢野氏が「V字回復するためには、世代交代しなければならない」と説得。遠藤氏は社長就任への打診を受け入れることになった。
V字回復に向けた中期計画とは、最終利益2000億円、ROE(株主資本利益率)で約15%を達成するという2017年度の水準「グループビジョン2017」に基づいたもの。まずは、12年度に最終利益1000億円、ROEで10%を計画している。最終利益は過去最高で、「グループビジョン2017を果たすためには必達」(遠藤氏)。また、売上高については今年度見込みで3兆6600億円と3兆円規模にまで下がってしまう水準を、年平均3%の成長率で12年度に4兆円まで回復させる。ただ、来年度以降は半導体事業の売上規模である5000億円程度が抜けるため、「実質的に8%の成長率を遂げなければならない」(同)。収益ともに、強気の目標であることには変わりないだろう。
計画を達成するための柱となるキーワードは、「グローバル化」と「クラウド」だ。「グローバル化」では、EMEA(欧州、中東、アフリカ地域)と中華圏、APAC(アジア・太平洋地域)、北米、中南米といった5地域の支社や子会社などとの連携を強化。グループ一丸で成長するといったコンセプト「One NEC」をグローバルで早急に確立する。これにより、アジアや新興国などのマーケットに力を注ぎ、海外売上規模として1兆円を狙う。「クラウド」では、「C&Cクラウド戦略」を掲げており、ユーザー企業に対してクラウド環境を構築していくほか、同社が事業者となってサービスを提供することも進める。同戦略で1兆円規模の売上高を見込む。
遠藤氏は、海外市場やモバイル関連の新規事業に多く携わった経験をもっている。矢野氏は、「グローバル化を推進するために適した人材」と評価する。加えて、クラウドは同社が以前から重視してきた分野だ。一方、携帯電話や半導体などの事業は切り捨てた。こうした点を踏まえると、ようやく同社が方向性を見つけ出したことがうかがえる。“矢野体制”で不採算事業の精査が完了、今後は“遠藤体制”でその真価が問われるということだ。(佐相彰彦)

4月1日付で社長に就任予定の遠藤信博氏(左)と現社長の矢野薫氏