日本IBM系のシステムインテグレータ(SIer)とディストリビュータを事業会社に抱えるJBCCホールディングスでは、山田隆司氏が4月1日付で新社長に就任した。同社が過去数回にわたって挑戦したものの、まだ実現できていない「売上高1000億円、営業利益率5%の到達」を、新社長は改めて中期的目標として明言。クラウドを中心としたサービス事業に軸足を移し、国内だけでなく、アジアを中心とした海外市場で2015年までに100億円を売り上げる考えを示した。国内のハード販売で成長してきたコンピュータ販社は、山田新体制で一段とサービス事業にシフトし、グローバル展開を加速させる。
クラウドを柱に海外事業加速も
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4月1日付で新トップに就任した 山田隆司社長 |
JBCCホールディングスは、SIerの日本ビジネスコンピューター(JBCC)や、IT機器およびサプライ品関連ディストリビュータのイグアスなど、合計12社の事業会社で構成されている。日本のほか中国でもビジネス展開する。山田新社長は、JBCCと新製品開発の戦略的子会社であるJBアドバンスト・テクノロジー(JBAT)のトップを務めた後、2009年10月からJBCCホールディングスの取締役専務執行役員を務めていた。約9年間トップを務めた前任の石黒和義氏(4月1日付で代表取締役会長)に代わって、新社長に就いた。2月上旬に石黒会長から就任要請を受けたという。
山田新体制が掲げる中期業績目標は、創業50周年を迎える2014年に「売上高1000億円超え、営業利益率5%の確保」だ。山田社長自身が本紙の取材に対して明言した。「過去何度かチャレンジしたものの、いずれもあと一歩のところで届かなかった。改めて挑戦する」と山田社長は強調する。今年度(2010年3月期)の業績は、売上高が前年度比8.1%減の850億円、営業利益率は同49.4%減の13億3000万円で、営業利益率は1.56%。約4年の期間で売上高を150億円、営業利益を36億7000万円積み増す計画。利益の計画は強気だ。
目標達成に向けて、事業基盤を強化するポイントは二つ。「サービス事業へのシフト」と「海外市場での売上拡大」だ。サービス事業へのシフトでは、クラウドを中心に据える。ユーザー企業のプライベートクラウド構築に加え、自社開発のパーケージソフトをサービス化し、パブリッククラウドサービスとして展開。そして、「GoogleApps」など他社のクラウドサービスを独自の付加価値を加えて、再販する。サービスを提供するクラウド基盤は自社インフラだけでなく、アマゾンやNTTコミュニケーションズなどの他社基盤も活用する考えで、手広く考えている。
JBCCホールディングスの今年度上期のサービスビジネスの売上高は全体の31.7%。これを売上高1000億円に到達させる時期には、今の売り上げ区分でいえば「70~80%まで高める必要がある」と山田社長は語っている。ハードの販売や一般的なSIビジネスよりも利益率は高いとの見解で、一時的に売り上げが減ったとしてもサービス事業を今後の柱に据える方針を固めている。
一方、海外事業ではアジア市場への進出を加速させる。とくに中国だ。大連市に2月22日付で設立した100%子会社であるJBパートナーソリューションズが、4月1日から営業を開始。同子会社を中心に、まずは中国に進出した日系企業向けの情報システム運用や保守などのITサービスを展開する考えだ。そして、2~3年後をメドに、中国現地企業向けビジネスを本格的に始める。また、中国だけでなくタイへの進出も視野に入れており、市場調査を進めているという。海外事業の売上高は今年度1億円の見通しだが、来年度は10億円弱、2015年度には100億円規模まで成長させる算段。来年度からまずは中国で一気に攻める。
JBCCホールディングスは、もともと国内市場で、ハード販売およびその保守サービスに強い企業。だが、サービス時代の到来と、国内IT産業の飽和を感じとり、サービスとグローバル展開を、新体制でますます加速させるつもりだ。
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膨張した事業会社の整理を視野に
JBCCホールディングスの山田隆司・新社長は、「サービス」と「グローバル展開」を中期的な強化ポイントに定めたが、事業基盤強化のためにもう一つ「やらなければならない仕事」を挙げた。それが、グループ事業会社の整理だ。
JBCCホールディングスは2006年4月に、それ以前は日本ビジネスコンピューター(JBCC)に子会社を配置する事業体制から、純粋持株会社であるJBCCホールディングスを設立し、ホールディングス体制に移行した。それから4年で、M&Aや既存事業の切り分けによる新子会社設立などで、事業会社は12社にまで増えた。山田社長はこのグループ経営について、今以上に最適な経営方法を追求する考えを示している。
「責任が明確化していることは強みだと思うが、グループ企業の相乗効果を発揮できているかと問われれば、まだまだこれから」(山田社長)。具体的な計画は明言しなかったが、事業会社の再編を視野にしていることを明かした。各事業会社の機能を移管・統合して、グループ会社数を減少させる可能性がある。山田社長は、「事業会社の再編についても、サービス事業を強化するために必要な体制を意識して構成する」と話している。
インテックホールディングスやSRAホールディングスなど、今ではSIerやソフト開発の純粋持株会社体制への移行は当たり前になっているが、JBCCホールディングスはそのなかでも、先駆け的な存在だった。
クラウド時代を見据えた組織体制は、中堅クラス以上のITベンダーであれば共通して捉えている課題だろう。山田新社長がサービス事業を強化するために敷く新たな体制とはどのようなものなのか――。中堅以上のITベンダーはここ数年M&Aなどで規模が大きくなり、グループ経営の最適な方法を模索するITベンダーが多いだけに、その試金石になるはずだ。(木村剛士)