OSSは中国の文化に適している
──今後の中国では、携帯電話網がさらに通信の中核に入り込んでくるということですね。
中尾 中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯合通信(チャイナ・ユニコム)、中国電信(チャイナ・テレコム)という中国の三大キャリアが、3G網を普及させるためにAndroidを使ったサービスを展開すべく搭載端末を推進していますし、モトローラ、ソニー・エリクソン、レノボ・モバイルも、Android搭載端末を発売しています。
Androidについては、深セン市が、Android携帯を作っているメーカーがたくさんいますね。キャリアに認定を受けていないコピー製品のような山寨(シャンジャイ)携帯を含め、デバイスメーカーがひしめき合っています。どの企業も利益に貪欲ですから、OSSを使っている会社が非常に多い。
今、中国ではハイテク企業──要は特許をもち、モノを作ることができる会社が優遇されています。深セン市も非常に力を入れていて、一大産業にしようと躍起になっています。各省ごとにそれぞれ育てたい業種が違っていて、例えば四川省あたりでは流通業で、日系のスーパーマーケットが集中しています。
──そうなると、安徽ではこれからOSSを推進するということでしょうか。
中尾 OSSを推進しているのは当社が急先鋒です。地方政府では漠然と「ソフトウェア」と考えているようなので、当社が啓発していく状況ですね。国全体ではAndroidに戦略的に取り組むといっていっていますし、また、中国でいう「自主的知的財産権」を保有するのに、OSSが格好の素材なんです。ゼロから用意しなくてすむし、カスタマイズできるし、何よりも怒られない(笑)。中国の文化に適しているんですね。
──ところで、先ほどのお話にあったSaaSやクラウドに対する中国の盛り上がりは、日本と比べてどうでしょうか。
中尾 いわずもがな、中国のほうが盛り上がるでしょう。市場が大きいですから、SaaS、クラウドも熱狂的だと思いますよ。中国は産・官・学のうち、官の権力が圧倒的に強いですから、官や学が「やる」といえば絶対やるわけです。外資系企業が自国のノリで産業重視でビジネスしていると、つぶされてしまうこともあります。官の動きをつぶさに観察していないと、中国での事業は成功しない。当社が地方都市に構えたのも、官とのつながりを作るためでした。馬鞍山市のソフトウェア産業協会の会長さんにもご挨拶させていただきました。日本でも中国でも、ビジネスするには当然営業許可を取らないといけないのですが、パイプを作っておけば融通をきかせてくれますね。
狙い目の商圏は上海から電車で1時間
──今、日本からビジネスで進出するのに適している地域はどこでしょうか。
中尾 一番の狙い目は、上海から電車で1時間圏内の都市。なぜかというと、結局、営業拠点は上海になる。ただし、上海では何億円という規模で投資しないと、政府の人をなかなか捕まえにくい。これに比べると、地方都市は産業活性化に躍起になっていますから、これだけ投資してくれるなら、こういう優遇措置をしますよ、という条件が必ず出てくるわけです。当社の場合は、オフィスが3年間無償で、税制優遇もあって、社員用の宿舎をいただけて…という具合です。宿舎は使っていませんが(笑)。
それに、上海は人件費が高騰しています。日本語が話せて技術がそれなりという現地の方を雇おうとすると、月給1万5000元(22~23万円程度)、保険料の負担が給与の40%くらい。そうすると、日本の地方都市で一人雇っているのと変わらないわけです。
──上海の電車で1時間圏内というと、具体的にはどこになるのでしょう。
中尾 1時間圏に入ってくるのが杭州市や嘉興市、蘇州市、無錫市ですけれど、このあたりはすでにメジャーになっていますね。安徽省の馬鞍山は上海から4時間かかりますが、ここに来てもらうとか(笑)。来年には上海から馬鞍山まで直通の電車が来るそうなので、1時間半に短縮されます。マンションも高騰するはずなので、今のうちに買おうと思います(笑)。上海と比べると、何より人件費が違います。Javaの勉強など、一連のことを習得した卒業したての人材の給与は、上海では4000元(6万円弱)くらいなのですが、馬鞍山だとその半分以下で雇えます。技能的にそんなに変わりませんし、内陸に行けば行くほど安いでしょうね。
──人件費でそんなに差が出るのですか。
中尾 中国って面白いのですが、物価が日本と比べて3分の1くらいで「安いなあ」と思うこともあれば、同じくらいのモノもあったり、むしろちょっと高いと思うところもあったり。電化製品なんて軒並み高いですね。
──電化製品はスペックにもよると思うのですが、目安でおいくらなのですか。
中尾 ノートPCはネットブックが出ていますから安くなってますけれど、4000-5000元(約7万-8万円)はするので、日本と変わりません。デルやHPも、日本の価格とそんなに変わらない。
──それなら日本に来て買ったほうがいい…。
中尾 正直いって日本で買ったほうがいいんじゃないの、と思うことがあります。だってポイント還元があるでしょ(笑)。
──日本だと、1円PCなどもありますが。
中尾 通信契約とセットにしたキャンペーンですよね。それはチャイナ・テレコムなどがやっているかもしれません。テレコムはチャイナ・モバイル、チャイナ・ユニコムといった他のキャリアと比べて出遅れています。チャイナ・テレコムには3Gユーザーが400万人くらいいるのですが、そのうち3分の2は純粋な携帯電話ではなく、パソコンにつなげるUSBタイプのデータ通信カードの利用者です。ただ、携帯電話が普及して、WiFi網や3G網が先に地方都市に整備されれば、「モバイル・インターネットができれば十分」と考える人たちが増えるでしょう。これから内陸部で光回線やADSLがどのように普及していくかはわかりませんが、3G網は各キャリアが設備投資回収のために必死に取り組んでいますから、確実に普及するでしょう。
[次のページ]