「中国13億人の市場」は幻想?
──勉強不足で申し訳ないのですが、中国で携帯端末の雄というと、どのメーカーになるのでしょう。
中尾 ノキアですね。
──使い勝手が中国の方に合っているということでしょうか。
中尾 わかりません…。昔、マーケティング会社の人から聞いたのは、中国の人は機能から入らずにメーカーから入る。ブランド戦略がうまくいったのかもしれませんね。僕は自分が何をしたいかを考えて、それができるのはどれかを選ぶのですが、中国の人は「あ、ノキアだ。ノキアで決まり。さて、ノキアのどのモデルにするかな──」というパターンなのでしょうね。
ノキアの次には、HTCが来ます。HTCは大陸内では「Dopod」という別ブランドを出しています。あとは、中国国内系のメーカーでMeizu、レノボモバイルなどですね。最近OPPOという新興メーカーが若者に人気があります。
中国には細かい世代分けがあって、「80後」、つまりひとりっ子政策が始まった1980年代以降生まれの人たちが、消費者マーケティングの一つの指標になっています。彼らが今、成人になって、わがままなひとりっ子=小皇帝と呼ばれます。両親から蝶よ花よと育てられて、親族からも愛情をたっぷり注がれているわけですね。その「80後」を満足させるのが、今の中国企業や外資系企業の戦略になっています。

「年代と地域でセグメンテーションされる」
──マーケティングの指標世代という意味では、人口構成比は逆になりますが、日本の「団塊世代向けビジネス」のようなものでしょうか。
中尾 そうですね。詳しく知っているわけではないのですが、中国は年代別で5段階くらいに分かれるんですよ。上の世代は文化大革命を経験して、その前後でも違うし、その後の「80後」や、最近だと「90後」もあります。世代別にどう攻略していくか、企業はしっかり取り組んでいます。
加えて、地域もあります。上海に住んでいる人と馬鞍山に住んでいる人が同じ買い物するかというと、おそらくしません。中国でも、沿岸部はインターネット広告などで情報を共有しているのですけれど、内陸になると一番の情報源はラジオなんですよ。
──ラジオですか。
中尾 ラジオ広告かテレビ広告です。あと、人づてに聞くとか…。年代と地域でセグメンテーションされるんですよ。だからよく日本でいう『中国13億人の市場』って表現には違和感がある。13億人の市場なんて実はなくて、存外細分化されているものなんです。
ちなみに、中国のメディアは面白いんですけど、無断転載ウェルカムなんですよ。転載のときに出典は表記するんですけれど、転載されたメディアは「名誉」と喜ぶわけですね。僕もブログで記事を転載していますし、OSSとモバイル事情は毎日書いています。
──中尾さんのブログを拝見していれば、中国のOSSとモバイル事情がつぶさにわかるというわけですね。本日は貴重なお時間、ありがとうございました。
■プロフィール
安徽開源軟件有限公司 董事長兼総経理。日本のIT業界に16年、Linuxに代表されるオープンソース業界で10年の経験を有する。日本のオープンソース業界では、黎明期の2000年前後からマーケティング・アライアンス職として、ビジネス企画・推進からパートナーとの協業モデルの構築などに従事。外部団体での活動にも積極的で、PCオープン・アーキテクチャー推進協議会(OADG)やオープンソース・デベロップメント・ラボ(OSDL)などでオープンソースの普及に携わる。経済産業省外郭団体である情報処理推進機構(IPA)のオープンソフトウェアセンター広報タスクグループの一員として、地方のオープンソース活性化を推進するとともに、デスクトップLinuxの普及促進、コモディティ化に取り組む。2008年3月から主戦場を中国上海に移し、オープンソース企業の上海法人社長兼CEOとして会社設立。上海での顧客基盤確立と開発プロジェクトの総指揮をとる。2009年6月に安徽開源軟件有限公司設立。