キヤノン(内田恒二社長)は、全世界統一のプリンタ環境を包括的に管理・運用する「マネージド・サービス」事業の展開を加速させている。国内では、同社に限らずプリンタメーカーが提供するマネージド・サービスによるTCO削減などの効果が企業に知られるようになり、ITシステム全体を最適化する際に導入を検討するケースが増えてきた。これを受けて、キヤノンはまず富士通など特定のITベンダーと協業し、国内の中堅・大手企業への直接導入を促進する。一方で、将来的には中小企業に間接販売することも検討している。
世界で通用するサービス、日本へも
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永根宏道 映像事務機事業本部 NB推進プロジェクトチーフ |
キヤノンは2009年9月、全世界統一のマネージド・サービス「Canon Managed Document Service(Canon MDS)」を立ち上げ、世界各地での展開を本格化している。サービスを提供する企業のオフィス内と集中印刷室(CRD)で最適な出力環境を構築し、運用を提供。遠隔管理機能が備わった新デジタル複合機(MFP)「imageRUNNER ADVANCE」シリーズやソフトウェアなどと組み合わせ、運用負荷とランニングコストの低減などを図ることができる。
キヤノンのマネージド・サービスは、日本を除く欧米を中心とした世界の現地子会社が独自の方法で推進していた。08年8月にリコーに買収された米アイコンオフィスソリューションズもその1社だ。国内では、キヤノンの販売子会社のキヤノンマーケティングジャパンが、08年1月に「onBIZZ」というサービスを開始した。昨年9月に開始した「Canon MDS」は、こうした国内外のサービスを融合したものだ。世界で統一ブランド化し、世界展開する日系企業を中心に「同じサービスレベルを提供できるようにした」(永根宏道・映像事務機事業本部NB推進プロジェクトチーフ)という。
これまで日本の企業では、世界に比べてマネージド・サービスのニーズが高まっていなかった。ところが、リーマン・ショック以降、コスト削減や運用負担を軽減する目的で、同サービスへの注目度が高まることとなった。そこでキヤノンはまず、このCanon MDSを国内で波及させるために富士通と提携し、同社のIT資産をトータルにサポートする「ワークプレイス-LCMサービス」を組み合わせて、主に大企業への提供を本格化させたわけだ。
Canon MDSは、フロア機管理サービスやドキュメントセンター運営サービスなど、ドキュメント業務運用のメニューを整えている。前者は機器資産の一元管理や最適配置、消耗品の在庫管理など「オンサイト」で行う。後者は紙原稿の大量プリントなどで紙代のコスト削減を行う「オフサイト」のサービスになる。永根チーフによれば、「契約した世界の企業に実施したサーベイの結果をみると、競合他社に比べて評判が高かった。契約企業の関連会社にCanon MDSが“横展開”されるなど、徐々に広がりをみせている」と、すでにマネージド・サービス市場で先行するゼロックスに追いつけるという手応えを感じているという。
外資系企業でニーズ高まる
一方、日本では「外資系を中心に世界展開する企業を対象として提供が始まっている」(永根チーフ)ようで、世界各国の拠点で統一したドキュメント・サービスを受けたいと考える企業のニーズが高まっているという。これを受けて同社は、富士通と共同でITシステム導入の際、同時にCanon MDSを提案することを手始めにマネージド・サービスの拡大を図っていく方針だ。
現在のところは、案件ベースで富士通と手を組んで導入を推進しているが、今後、全国に点在する販売子会社から直接提案できる体制を整える。将来的には「ドキュメント周りのコスト削減策として、当然、中小企業からのニーズも出てくるだろう」(永根チーフ)と、地場SIerなどと組み、Canon MDSを中小企業へ波及させることを検討している。
国内のマネージド・サービス市場は、世界でも同サービスをけん引する富士ゼロックスが先行する。富士ゼロックスの対象企業は超大手が多く、その下の規模になると、従前から関係性が深いキヤノンやリコーに利があるといわれる。実際、キヤノンやリコーは、マネージド・サービスを中堅・中小企業に浸透させようと、直系子会社から体制整備を進めている。
今年に入ってから、キヤノン、リコー、富士ゼロックスの大手3社は、従来の事務機ディーラーのほかにSIerをパートナーに加えることに積極的な姿勢をみせている。ある北海道の有力SIerは「プリンタ周りは苦手な領域で、顧客の要望に応えられないことが多い。基幹システムを提供する際に必要な出力部分で悩みの種だった部分だ。これをプリンタメーカーが提供するサービスと一緒に解決することができる」と話す。マネージド・サービスが「ストック・ビジネス」になるとみるSIerは増えつつあるのだ。
日本のプリンタメーカーやプリンタを販売する事務機ディーラーは、プリンタ機器を販売し「コピーチャージ(パフォーマンスチャージ)」を得ることで売り上げを立てていた。しかし、マネージド・サービスをどうSIに組み込み、広範のSIerに収益をもたらすか、具体的なビジネスモデルは築かれていない。これを見出したプリンタメーカーは、今後増え続けるマネージド・サービス市場で優位に立つことができる。(谷畑良胤)