NEC(遠藤信博社長)は、2010年秋、“クラウドコミュニケーター”と表現する端末「Life Touch」を市場に投入する。コンシューマが家庭内でネットワーク経由でアプリケーションを活用することや、特定の業種で社員が業務で使うなどの利用方法がある新しい考え方の端末だ。同社は、この端末の普及にあたって、クラウド・サービスを組み合わせて端末を提供する新しいビジネスモデルを展開する。
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| 西大和男本部長 |
「LifeTouch」は「誰でも使える端末」という位置づけで、タッチパネルとカーソルボタンで操作することが特徴。画面は7インチと、携帯電話よりも大きく、パソコンよりも小さい。
この端末を市場へ投入した理由について、西大和男・支配人パーソナルソリューション事業開発本部長は、「パソコンの世帯普及率が高止まりしているからといって、使いこなしているユーザーが多いとは限らない。一方、同じように普及率が高い携帯電話をみると、うまく活用されているケースが多い。そんな状況から、携帯電話よりも使い勝手がよく、パソコンよりも機能を限定した端末にニーズがあると判断した」と説明している。
NECが「Life Touch」で想定しているのは、使えるアプリケーションをあらかじめ限定し、あまりパソコンを使わないユーザーが提供側から送られてくるサービスを使うという仕組み。そのため、「通信事業者やSIerなどと組んでサービスを提供する」(西大本部長)。基本的には、コンシューマや法人などに端末を無償で提供するといったビジネスモデルを構築するという。
例を挙げれば、通信事業者がブロードバンドや光サービスの加入者を増やすため、一つの方法として「LifeTouch」をユーザーに無償で提供する。また、通販会社などが主婦向けにカタログの代わりに端末を配布し、搭載したアプリケーションから毎月、商品情報を配信するといったモデルも考えられる。法人市場では、SIerが保険会社など特定業界向けにアプリケーションをSaaSで提供するために、ユーザー企業に「LifeTouch」を導入することなども検討している。

収益は、「LifeTouch」を担ぐベンダーがサービスの提供で確保する。NECがサービスで回収した売り上げをシェアするほか、SaaSのプラットフォーム提供などで収益を得ることになる。「パートナー企業とWin-Winになるような関係を築く」としている。
同社がこの端末の需要を認識したのは、アップルの「iPad」が大きな話題を呼んだからだとみられる。ただ、iPadと同様のビジネスモデルは「最適とは考えていない」という。iPadの場合、ユーザー自身が家電量販店やアップルストアなどで端末を購入し、やりたいことに合わせてiPad用のアプリケーションを探し出す。これに対して“クラウドコミュニケーター”は、まず「サービスありき」で、サービスを利用するための端末という位置づけだ。「あくまでもパソコンを使っていないユーザーを取り込む」(西大本部長)。新しいビジネスモデルの構築に向けて、これまで同社が得意としてきた多くのベンダーとのパートナーシップと、クラウドビジネス拡大に力を注いできたというノウハウを生かし、新しい端末を普及に導く戦略だ。(佐相彰彦)