中国ヒューレット・パッカード(中国HP)は、日系の販社からの信頼を取り戻すことに必死だ。PCなどクライアント関連事業で、今年度(2010年10月期)から日系販社を支援する組織を設置。この組織のトップに日本人を配置し、販社とのパートナーシップを深める体制を強化した。これにより、中国でのPC販売を増やしていく方針だ。
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| 齋藤航本部長 |
これまで日系販社に対して、HPでは日本法人が専門チームなどの設置で支援していたが、これを中国法人を中心とした支援体制に変更した。日本HPと中国HPの文化が異なっていることなどが理由とみられる。
中国HP側できちんと体制が整っていなかったため、ここしばらくの間、中国市場におけるHPの販社支援は停滞していた。しかし、HPにとっては、日系企業をユーザーとして獲得するためには日系販社の力が欠かせない。そこで、まずPCなどクライアント端末の販売で、今年度から「パーソナルシステムズ事業部コマーシャルボリュームセールス日系法人営業統括本部」を設置。今年に入ってからは、齋藤航氏が本部長に就任している。齋藤氏は、デル日本法人の中国進出に携わったほか、中国HPに入社して中国企業を対象に営業を担当した経験をもつ。中国HPのなかでは、唯一の日本人スタッフだ。
齋藤本部長は、同社が展開してきた日系販社向けの支援について、「これまでは、しっかりとした支援を行ってこなかった」と実状を打ち明ける。販社が日系企業向けにPCを納入して、万が一のトラブルに備えて、HP側は中国人によるサポート体制を築いていた。しかし、「やはり日本人がトラブルに対処することによって、販売パートナーを安心させる必要がある」と判断している。これまでは、「日系の販売パートナーがHPの製品をユーザー企業に納入することをためらうケースが少なくなかった。当社の信頼はないに等しい」と語っている。
このような反省のうえに立って、日系法人営業統括本部が現段階で取り組んでいるのは、日系販社や日系ユーザー企業への訪問活動だ。現状のサポートに対する不満などを、齋藤本部長が聞いて回っている。それぞれの訪問であがってきた声をもとに、サポートの改善に生かす考えだ。また、「社内体制が万全とはいえない」と判断しており、マニュアルの作成などで均質なサポートが実行できる基盤を整備しているところだ。
サーバーに関しては、ワールドワイドでブランド力が強い点を生かして販売拡大基調を維持するなど、堅調に推移している。米国や日本などと同様に、中国市場でも高いシェアを確保している。しかし、PCについては「サーバーが売れれば、PCも売れるというわけではない。しかも、中国は価格にシビアな面があるので、サーバーをリプレースするついでにPCも同じブランドのメーカー製品を購入するという流れはみられなくなっている」という。そんな市場環境の下で販売していかなくてはならないこともあって、「PC販売で、これまでのような“殿様商売”では事業存続の危機を招く恐れがある」と気を引き締めている。
現在、日系法人営業統括本部があるのは上海だけだ。同社は、齋藤本部長が進めている信頼回復施策や販社支援に向けた体制整備に関して、「上海で成功すれば、ほかの地域でも同水準のことに取り組むなど、横展開していく」としている。また、PCだけでなくサーバー事業でも日本人スタッフを採用することなども模索する。日系企業への支援強化は、中国市場での地位をさらに確立する試金石となる。(佐相彰彦)