最近、有料版とそん色ない高い機能をもつ無料のアンチウイルスソフトが注目を浴びている。その一つが、今年6月に新版をリリースすると同時に日本語に対応したのが「Panda Cloud Antivirus」だ。スペインのアンチウイルスソフトウェアメーカー、パンダセキュリティの日本法人、PS Japanの森豊CEOに、製品の優位性や強化点についてうかがった。
脅威急増、特徴の異なる亜種の生産も増加
――マルウェアの最近の傾向を教えてほしい。 森CEO 最近は、自分の作品としてウイルスを世に知らしめる「愉快犯」から、金銭目的にウェイトが移っている。偽アンチウイルスソフト型のウイルスによって、ユーザーのPCがいかにもウイルスに感染しているように見せかけて、有料版の偽アンチウイルスソフトを無理やり購入させ、クレジットカード情報を盗み取る手口も出てきている。
例えば、Twitterなどにワールドカップや芸能人のゴシップネタなど、ユーザーの気を引くネタを書き込み、リンクを貼っておく。ユーザーが興味をもってリンクをクリックすると、動画を視聴できるサイトに遷移する。そこで再生ボタンを押し、コーデックをダウンロードすると、偽アンチウイルスソフトが勝手にインストールされてしまうといったやり方だ。そうなるとユーザーはもう戻ることはできない。
最近では、マルウェアを簡単に作成するキットもある。設計図さえあれば、コード実行の仕方が異なるものなど、少しずつ違う「亜種」を大量に作ることができてしまう。また、Adobe Flash PlayerやPDFリーダーの脆弱性を突く攻撃で感染する件数も増えている。
こうした脅威に対抗するための手段として、従来のようにパターンマッチング型の防御では、収集した検体を解析して定義ファイルをつくり、検証、配布をするとなると、人手も時間もかかってしまう。また、大量の定義ファイルによってPCが重くなるという弊害も起こっている。
わずか6分で対策を実現、コレクティブインテリジェンス
――パターンマッチング型では間に合わなくなるほど多種多様なマルウェアが急増するなかで、パンダセキュリティの優位性は。
森CEO パンダセキュリティは、2006年頃から「コレクティブインテリジェンス」というクラウドベースの検出技術を製品で提供している。これは、各PCに対して定義ファイルの配布を行うのではなく、ユーザーのPCに軽いエージェントをインストールしておき、新しいファイルが見つかったときに、そのフィンガープリント(指紋、特徴点)を本社のサーバーに送信するだけで、マルウェアか否かをクラウド上で照合し、対策を打つことができるもの。6分以内という短時間で防御を実現する。
これによって未知の脅威を防ぐことができるが、同時に正規のプログラムの実行を誤検知で止めてしまわないように注意しなければならない。全世界のパンダセキュリティ製品ユーザーを広げることで、収集するマルウェアサンプルを増やし、ナレッジを強化する。
――無料版と有料版「Pro」の特徴は。
森CEO 無料版「Panda Cloud Antivirus」でも、20か国語に対応するサポートとコレクティブインテリジェンスを提供している。また、クラウドベースの保護ではあるが、万が一、PCがオフラインの場合でも、ローカルに前回マルウェアチェックした際のキャッシュが残っているので、それを使って検出する機能を強化した。
有料の「Pro」では、疑わしいプログラムの実行中の挙動を監視してマルウェアかを判別する「振る舞い分析」や、USBメモリなどの外部メディアからウイルスが自動実行されないように防御する「自動USBウイルス対策」を搭載している。また、新しいエンジンとプログラムに自動的にバージョンアップする。無料版は日本語サポートを提供していないが、有料版では提供を開始した。
――現状のユーザー数は? 有料版に切り替えるユーザーはどのくらいいるのか。
森CEO 無料でも常時保護でちゃんと機能する製品を提供しようと、「フリーミアム版」として提供し、現在グローバルで1000万人近いユーザーを獲得している。これをさらに広げ、もう一ケタ増やしたい。
また、無料版ユーザーの62%ほどが有料版に乗り替えている。無料版は、専用ウェブサイトと「窓の杜」で提供しており、メールアドレスだけで利用できる。まだ「Pro」の利用は少ないので、無料版で効果を実感したユーザーには、ぜひ「Pro」を利用していただきたい。また、企業向けの製品も提供しているので、企業内個人が利用してもらうことで、企業ユーザーも増やしていけたら、と考えている。(鍋島蓉子)

PS Japan 森豊CEO