NEC中国(木戸脇雅生・董事長総裁)は、2010年秋をめどに中国市場向けにクラウドサービスの提供を開始することを明らかにした。中国のローカル企業を対象にSaaSを提供。業種特化のアプリケーションを中心にサービスを拡充していくことでユーザーを獲得していく。また、クラウドサービスの利用に適した専用端末の市場投入も模索している。市場が立ち上がっていない段階で他社に先駆けてクラウドビジネスの本格化を図ることにより、近い将来には中国クラウドサービス分野でNo.1ベンダーになることを見据えている。クラウド事業をベースに、中国市場での売上高を現状の2~3倍に引き上げる路線を敷設する方針だ。
今秋、現地企業向けにSaaS提供へ
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| 久保田亮副総裁 |
NEC中国は、「中国のローカルDC(データセンター)事業者と話を進めることで、SaaSを提供する素地が固まった」(久保田亮・副総裁)としている。中国市場で手がけていくクラウドの分野はSaaSで、「20種類程度はアプリケーションを揃えたい」意向だ。ローカルのソフト開発系SIerと組むことを進めており、業種特化のアプリケーションをSaaS化する計画を立てている。医療関連では、このほどローカルベンダーとの協業で、中国のニーズに合った製品・サービスのパッケージ化を果たした。「このソリューションをSaaSで提供することも模索する」。流通業界で日系企業に提供してきたアプリケーションもローカル企業向けに開発し直す考え。また、クラウド利用に適した専用端末の開発にも取り組む。
社内体制として、クラウド関連事業を手がける専門チームを設置する予定。「当初は少ない人員だが、将来的には100人規模まで増やす」としている。販売については、「当面は、当社が販売のアプローチをかける」と、基本的には直販でユーザー企業を獲得していく。ただ、ビジネスを軌道に乗せるため、ローカルのSIerと販売契約を締結することも模索し、「さまざまな角度からユーザー企業の獲得を検討していきたい」考えを示す。
NEC中国がSaaSの提供に踏み切ったのは、「ローカル企業をユーザーとして獲得していく」ため。これまで日系企業を中心にパッケージソフトやサーバーをはじめとしたハードウェアなどシステム構築を中心にビジネスを手がけてきたものの、「リーマン・ショック以降、日系企業のシステムに対する投資意欲が低い」とみている。一方、中国のローカル企業のIT投資意欲は回復。そのローカル企業を中心に新規顧客の開拓が必要と判断した。ただ、「SIに関して中国では、当社のシステム価格が高いと認識されている」。そこで、システムより安価なSaaSを提供することにしたわけだ。
加えて、「中国はクラウドが立ち上がっているとはいえない」といった市場環境も同社が急いでクラウド着手に専念した理由。「いかに他社より早く立ち上げ、軌道に乗せるかがポイント」と判断しており、ローカルのDCとアライアンスを組むことになった。同社が中国クラウド市場の拡大に寄与することで、「中国でのクラウドNo.1ベンダーを狙う」としている。売上高については具体的に明らかにしていないものの、「SIだけの展開では成長率が20~30%増のところ、SaaS事業を加えることで現状の売り上げより2~3倍まで膨れ上がる」と自信をみせている。
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NEC、アジアの売上規模4500億円へ
NECは、中国や台湾、インド、シンガポール、インドネシアなどアジア地域で、2012年度(13年3月期)の売上規模として4500億円を目指している。アジア地域の売上高は、09年度時点で2000億円規模だったので、3年後には2倍以上に引き上げることになる。達成するためには、急成長を遂げる中国市場で、いかに事業を拡大できるかがポイントといえるだろう。
NEC中国の久保田亮・副総裁は、「事業拡大のためにも、クラウド事業を早急に立ち上げることが不可欠」と考えている。
中国の企業は、自社にITシステムを構築するにあたって、一般的にハードやパッケージソフトなどを中心に導入する傾向があるといわれている。ITをサービスで利用するというケースは少ないというわけだ。しかも、価格要求が厳しい。一方、ITベンダーを取り巻く環境は、中国のローカル企業をはじめ、日系のメーカーやSIer、そして欧米からも参入しており、入り乱れている。このような状況から、ハードをはじめとした低価格競争が激化しているのだ。
そんななかで、NEC中国は、「利益度外視でシステム案件を獲得しても意味がない」と考えている。低価格で提供しながらも利益を確保するため、手頃な価格で、しかもストックビジネスとして安定的に利益が確保できるSaaSを提供する環境を整備し、今秋に開始することになったのだ。また、SaaSであれば「サービス利用を止めたい時に、いつでも止められるので、中国でもユーザー企業が導入しやすいと思うのではないか」と捉えていることに加え、「当社にとっては、ローカル企業を囲い込めるというメリットがある」としている。
NEC中国が事業拡大に向けてキーワードとして挙げているのは、クラウド以外に「中国企業の開拓」「ソリューションのパッケージ化」など。その三つのキーワードを満たすのがSaaSということになる。(佐相彰彦)